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作品名:居場所ーpremium loveー 作者:yossy

第8回   引っ越しへのカウントダウン
帰ってきてからは、一緒にいる時間が一層多くなった。8月に入り、暑い日が続いた。そろそろ仕事が忙しくなってきた。元々、経理マンで、例年、決算に追われる、4月・5月は忙しいのだが、6月・7月は比較的暇であった。前の年から役員になっていたので、実務に追われる事はなくなったが、経営問題でやらなければならない事は山積みだった。三年間、必死に働いて来たので、かつらと過ごした6月・7月は、ちょっと休憩のご褒美期間と、かってに思っていたが、いよいよ自分が動かなければならない時期にさしかかっていた。かと言って、だんだん愛おしくなってきたかつらと暫く離れて仕事で飛びまわり、かつらと過ごせない日々が多くなるのも考えられなかった。桂に、「一緒に住まない?」と冗談交じりによく問いかけた。桂はいつも「それもいいね。」と答えるだけでそれ以上の話にはならなかった。お盆が来て、桂は、岩手の実家に帰省した。その間する事もないので、会社に出て留守番をしていた。いつもなら、好きな映画三昧するところだが、最近は、桂とばかり行っているので、一人で行く気にもなれなかった。
かつらと数少ない趣味の共通点は、テレビドラマと映画だった。桂は、ここ10年のテレビドラマは録画して全部見ていた。僕は、映画が大好きで、週2〜3本映画館で見ていた。年間に100本は越えていた。桂が来るようになった5月くらいから、極端に減ってはいたが、それでも、月に5・6本は見に行っていた。ただ、桂とDVDを借りに行くと、彼女が選ぶ映画は殆ど見ており、僕が見ていないドラマは、殆ど彼女が見ていた。二人とも見てないDVDを探すほうが難しかったが、それでも一生懸命探して、日曜は、うちで二人でDVDを見る事が増えていた。二人で涙を流したり、ひどい出来の映画の時は二人でめちゃめちゃ怒りながら貶したりした。殆ど、感性が似ていたのが幸いした。
 帰省中、彼女から電話も掛かってこなかった。2・3日経つと胸がきゅんと締め付けられる思いがした。僕との事をしゃべって、もう札幌へ帰るなとか、お前は騙されているとか言われているんじゃないかと思うようになった。ずっと一緒にいたので、こんなに一緒にいないのも、久しぶりで、一緒にいないことで、一緒にいたい気持ちを募らせた。そんな心配をよそに、かつらは、お土産をいっぱい持って帰ってきた。僕のことはやっぱり言い出せなく終わったようだが、それはしかたないと思った。いつもそうだが、実家から帰ってくると、なまりがひどくなる。家族の話を矢継早にするのだが、半分は理解出来ない。いちいち聞くのが面倒だから、「そうよかったね。良かったね。」と合わせていた。ただ、彼女の持つ、その年頃の娘とは比較にならないくらいのやさしさや思いやりは、厳しい父とやさしい母のおかげだと言うことはよく解った。実家の事を話す彼女の顔はかわいい娘そのものだった。そんな両親に、僕などの話が出来る訳がないとも思って、ちょっと凹んだ。
 次の週、僕の実家に二人で行くことにした。何年か前から、かつらの働いていたスナックには、兄夫婦をよく連れて行っていたので、かつらとは、何回か顔を合わせていたが、姉に会うのは初めてだった。少し年の離れた姉は僕の事を自分の子供のように心配していて、僕にとって母以上の存在だった。先ずは、身内に会わせてみたい。気に入るはず。それが、僕の思いだった。二人の今後を認めてもらう段階ではなかったが、姉に彼女を見て欲しかった。
 その夜、兄夫婦と姉夫婦と僕たち6人で、街で食事をした後、カラオケのあるスナックへ行った。どうゆうわけか、6人でマイク独占状態で、あっという間に時間が過ぎた。僕たちは姉の所に泊まった。翌朝、かつらがシャワーを浴びているすきに、姉に、「どお?」って聞いてみた。「解ってるよね。ちゃんと考えるんだよ。」「何が?」「お前はいいかも知れないけど、彼女には、お父さんやお母さんもいるんだよ。それに、年が違うんだから、いつまでも続くわけじゃないんだよ。そのときは、解ってるね。」言ってる意味が半分しか解らなかったが、要するに、結婚なんて出来ないんだよと言う事らしい。「もし、かつらが嫌になったら、ちゃんとするから。」「それならいいんだけど。」「今、知りたいのは、お姉ちゃんが、かつらをどう思ったかだよ。」「あの娘は、いい子だよ。お前にはもったいない。だから、言ってるんだよ。」くどくなって来たし、かつらがシャワーから戻ったので、そこで話はやめた。兄には、一緒に住もうと思ってるっていう話もしたが、兄は、彼女を気に入っている様だった。「うちの兄弟は、困ったときに助け合って生きてきた。これからも変わりない。困った事があれば、応援する。」そう言っていた。かつらの父のような兄。かつらの母のような姉。かつらも、すっかり、打ち解けていた。
 この釧路への帰省がきっかけで、一緒に住む方へ大きく僕の気持ちが傾いた。桂は「前からいいって言ってる。」とその気があるのかないのか解らない言葉を繰り返した。
 札幌へ帰って、すぐに、今の自宅を貸すことにして、二人の住む場所探しに入った。自宅は、少し補修が必要で、9月下旬から工事に入る事になった。新しく住むところは、結局、中古マンションを買う事にした。8月末には、10月1日に引っ越すというスケジュールが決まった。
桂が10月1日に借りてるマンションを出るためには8月31日が、大家に契約解除を告げる最終日だった。30日に「どうした?」って聞いたら、「行ったけど管理人さん、いなかった。」と言ったので、迷っているんだと思った。もし、明日までに、書類を出さなかったら、自分一人だけで引越ししようと思った。話によっては、彼女をあきらめようとまで考えた。が、次の日、あっさり、桂は書類を出した。引越しまでのカウントダウンが始まった。


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