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作品名:居場所ーpremium loveー 作者:yossy

第15回   カレーライス
暑い夏だった。お盆は社員を帰省させるため、自分一人で会社の留守番をするのが通例になっていたのだが、今年は手術後の療養中だったので、部長に変わってもらい、うちで過ごした。桂は帰省した。僕の希望で大きな鍋いっぱいのカレーライスを桂は作ってから帰省した。暑いし、桂がいないと、外に出る気もしないので、桂のいない4日間、朝昼晩これを食べて家に籠城した。結局、一度も外出しなかった。
 その4日間、桂からは連絡が無かった。「僕が、お父さんに会わなくていいのか?」「んーー。」考えているようではあった。「まだいいよ。もう少しゆっくりで。」「でも、呼ばれればいつでも俺は行くよ。そのつもり。」「解ってる。」そんな会話を帰省前にしていた。
連絡がないので、もしかしたら、お父さんに話して、「もう札幌に帰るな!」と叱られているのではないか、もう帰って来ないのではないかとも思ったりした。帰りの日、桂から突然電話が入った。「お土産は社長の所だけでいい?何にしたらいい?」ちょっとほっとした。そして、そのことについての話はお互いしなかった。
 桂は元気に帰ってきた。待てずに札幌駅まで迎えに出た。遠くで手を振る桂に、こちらも手を振ったが、ちょっと照れた。人前で手を振ったり、手を繋いだりするのは、よくやっているので、その照れは、周りに恥かしかったのではなく、桂の顔を見て、恐らく満面の笑みになっただろう自分が恥かしかったのだ。少し、二人で照れ笑いしながら、「ご苦労さま!」「ありがと。」と言い合った。お互いうれしさを隠し切れなかった。「どうだった?」と聞いたら、かつらは、饒舌に、家族の話を始めた。少し、訛っていたので、全部は解らなかったが、「そう、良かったね。」と繰り返した。でも、二人の事は話の中にはなかった。きっと、言いそびれたんだと思った。でも、その事は聞かなかった。
 9月に入っても暑さは続いていた。2度の連休があったので、仙台と釧路に行くことにした。仙台には、引越しを手伝ってくれた桂の妹が住んでいた。妹の彼氏も誘って、妹の紹介で接待で行ったことのある肉料理のお店にいった。隣が肉の小売店になっていて、そこの経営者がやっている店だった。久しぶりの妹は、笑顔で彼氏と一緒にやってきた。真面目そうな彼氏は大学生。妹より2歳年下。もし結婚したら、弟になる。随分、可愛い弟だ。お肉屋さんのお店だけあって、とっても、お肉がおいしい。頼んだ4皿はペロリと平らげ、追加をした。妹は、献身的で優しい女の子。頭が良くて可愛い彼を好きになったのは、よく解る。同棲しているが、まだお互い両親に会わせていないらしい。しかも、学生で年下。彼が帰った後、妹に、「真っ直ぐ行きな。自分らしくやりたいようにやったらいい。例え、結果がどうであれ、その方がいい。応援する。頑張って!」妹は少し涙を浮かべて、「はい。ありがとうございます。」
 次の日、飛行機の時間まで間があったので予定していなかったが、桂と二人で、松島に出掛けることにした。僕は初めてだった。彼女もゆっくり回ったことはないと楽しみにしていた。少し電車に揺られ、駅を降りると島々が眼前に拡がった。二人で自転車を借り、先ずはお寺回り。茶店で「ささかま」を自分で焼いて食べた。魚の風味たっぷりで、美味しかった。名前は忘れたが、最初のお寺で、絵馬の替わりに小さい達磨を売っていた。「なんて書く?」「ちくちくのすきなように!」僕は、「結婚出来ますように!」と書いて、二人で顔を見合わせ、ほほ笑んだ。無数に置いてある台の隙間に供えて、二人で手を合わせた。でも願いの実現は、まだ遠い話と思ってた。
 お寺巡りのメインは伊達政宗の菩提寺である瑞巌寺。あの民謡「大漁唄い込み」に出てくる瑞巌寺である。名工の木造建築に暫し見とれた。出口付近で「数珠を自分で作りませんか!」という看板に惹かれお寺の中に入ってみた。20種類くらいの石が箱ごとにいっぱい入っていて、そこから、石をテングスに自分でいれ数珠を作るのだ。僕は空かさず繋ぎの石以外は頭石も含め褐色の縞模様のタイガーアイを選んだ。指導してくれたお坊さんは、「全部タイガーアイと言うことは、仕事か会社の経営とそれの資金の事で色々考えてますね。」と言い、「繋ぎの白い石は純粋・真面目と言う意味です。」と言った。かつらが、「当たるね!」と僕を見て笑った。「この数珠はきっといい方向に導いてくれます。大事にしてください。」とお坊さんは付け加えた。丁度、仙台出店から半年。なかなかうまく進まず悩んでいた。かつらには、殆ど仕事のことは普段、話していない。「当たってる?」「いっつも、難しい顔して悩んでるでしょ。でも、ちくちくは一生懸命考えているんだよね。」「そうだけど、でも、仕事の話あんまりしてないつもりだけど。」「ちくちくはいつも、一段落してから、かつらにちゃんと話してくれるよね。だから、悩んでるときは聞かない。黙って見てる。」「ありがと。」気温は30度。松島はまだ暑かったけど、時より木々の間から吹いてくる風は、秋めいて涼しかった。
 美味しい海産物を食べ、遊覧船に乗り、僕たちは帰途に就いた。


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