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作品名:居場所ーpremium loveー 作者:yossy

第13回   愛を育むもの
僕と彼女はいつも一緒だった。会社に行っている時間以外、殆ど一緒に居た。この頃、朝8時半にうちを出て、4時にはうちに帰っていたので、一緒に居ないのが、一週間最大で37.5時間。寝ている時間も含めて、130.5時間は一緒に居る。この時期にこのことは、二人にとってとても重要だった。かつらは、営業をやっていたし、ホステスもしていたので、一見、社交的ではあったが、本当は、他人といると気を使い過ぎて、疲れるタイプだった。恐らく、厳しい父の前でいい子でいなければならなかった事で、人前では精一杯気を使う癖が身についていたのだろう。大学時代、気心の知れた友達が居たようだが、女同士の付き合いの怖さを知っていたのだろう、距離を保っていたように思う。また、札幌に来て、どうしても岩手には帰りたくなかったので、本当は好きではなかったが、一生懸命営業をやっていた。僕といる時、病気じゃないかと思うほどハイになる。ばかじゃないかと思うくらい弾ける。ちょっとした僕の言動や自らの失敗で落ち込む。半日、しゃべらない事もある。世の男性はこの落差を体験するときっと、彼女といるのが嫌になる。煩わしくなる。でも、僕は嫌ではなかった。なぜなら、僕たちは似ていた。僕も、落差が大きかった。元妻もそこが嫌だったと言っていた。彼女と僕はどうゆうわけか似ているところが多い。父親が厳しかったとこ。母が優しかったとこ。兄弟姉妹の仲が良いとこ。寂しがりやのくせに、他人といると気を使って疲れるとこ。情に脆く泣き虫なとこ。おんなじドラマや映画が好きなとこ。何でもない日常に幸せを感じるとこ。落ち込むと簡単に立ち直れないとこ。子供のように馬鹿になるとこ。上げれ桐が無い。恐らく自分でも嫌な(僕もそうだから。)落差の彼女を、僕に見せるのは、僕の前で、彼女が素でいられるということなのだ。そしてその事を包み込んでくれる、ちゃんと理解してくれる、ゆっくり付き合ってくれる、そう思っているからだと思う。彼女ほどではないが(自分ではそう思っている。)自分もそうなる時がある。僕もどうしてか彼女の前なら、素でいられる。二人の場面でよくあることだが、彼女がテンションの高い時は、僕が押さえ気味になる。低い時には、「大丈夫?」「僕が悪いんなら、誤るから言って!」などと気を使う(ふりをする)。僕がテンションの低いときには、彼女はおどけたり、「体、調子悪いの?」と気を使う。そういった意味で、フィフティフィフティなのだろう。二人でいる時、無理をしない。だから、長い時間一緒にいれるのかも知れない。そして、そばにお互い、居て欲しい関係が作り上げられようとしていた。特別なことはしない。一緒に買い物をして、一緒に食事をして、一緒に寝る。いつまで一緒に居ても、飽きない関係。昨日より今日、今日より明日、もっと互いに好きになっていく。彼女は、「いつまで居ても、歳の差感じないね。」とよく言う。お互い気を使っているわけではない。むしろ歳の差を隠さない事だと思う。知らないものは知らないと言う。彼女の生まれる前の事で彼女が知っておいた方がいい事もいっぱいある。逆に、トレンディな事で僕が知らない事もいっぱいある。僕が知る事で彼女のすることを理解出来る事もある。お互い、幅が広がる。不必要なおじさんの過去の自慢話は聞いていて厭になる。彼女が知らなくていい事でもある。興味もないのに、くどくど話す必要はない。最新映画やトレンディドラマをよく一緒に見るが、これらは世代を超える。感性の世界。歳は関係ない。音楽番組も一緒に見る。僕らの若い頃はビートルズ世代と呼ばれた。日本の歌なんて馬鹿にして聞かなかった。そのビートルズ世代も、今やカラオケで演歌をがなる。心に響いているのは、本人だけ。よいしょの部下が褒める。いい気になってがなる。今の音楽は旋律もリズムも僕らの若い頃より、随分進歩した。歌詞も多様になった。おじさんは言う。「今の若いもんの歌は全部おんなじに聞こえる。」そんなはずはない。ビートルズを聴いている頃、大人に、「がちゃがちゃとうるさいだけ」と言われたではないか。その音楽を聞き分けていたのだから、今の音楽の良さが解る筈。聴こうとしないだけ。夢から現実へ。夢は置いてきた。子供が成長するまでと何十年も封印してきた。そのうち夢が何だったかも忘れた。前にも話したが、僕は歌が大好き。彼女は僕の歌を聴くことが大好きだ。演歌や古い歌謡曲も歌えないわけではないが、僕は、今の歌が好きだ。ミスチルやオレンジレンジやレミオロメンやコブクロ。それぞれ、何曲か歌える。特に、平井堅の歌が好きで、いっぱい歌っている。ちょっと自慢すると平井堅の「君の好きなとこ」をカラオケで歌って、延べ8万人の中で全国3位になっている。大体、20位以内で、悪くても100位以内に入っている。おじさんとしては、上出来と自分では思っている。二人で歌えるCDを買ってきて、一緒に歌うのもすきだ。なんか仲良ししてる感じがする。新しい歌を覚えた自慢したのではない。齢55を過ぎ、衰える感性やチャレンジ精神を呼び覚ましているのだ。彼女は言う。僕の歌も好きだけど、どんどん前に進んでチャレンジする僕が好きと。
 この頃、二人だけの小さな幸せを見つける事が多くなった。帰宅途中、コンビニから必ず「買うものある?」「えーと、オレンジジュースと牛乳。それからもうビールがないよ。タバコもね。」実はこの会話、殆ど毎日同じ。違いと言ったら、「オレンジは残ってるから、牛乳だけ。」とか「まだビールあるよ。」程度だ。これは合図に近い。むしろ、「今から帰る。肴、作っておいて!」なのかも。うちに帰ると、僕がバーゲンで買った酒類専用の冷蔵庫から缶ビールと冷やしたグラスを持ってくる。その間に、桂が、一人暮らしで使っていた赤い小さなテーブルに、野菜たっぷりの肴料理が並ぶ。二人で一緒に席に着いて、「かんぱーい!」これを毎日繰り返す。食事が終わると、「手伝うよ。」「いいよ。疲れてるんだから。」でも、二人で一緒にお片付け。僕が皿を洗う。かつらが拭いて食器棚に仕舞う。「もう、ゆっくり飲んでていいよ。」「ありがと。」桂の明日の弁当の仕込みが終わるのを待って、2度目の宴が始まる。二人で一日500mlの缶ビールが3個。飲みすぎか。資源ごみの日は、朝、僕は大きなごみ袋をサンタのように持って、家を出る。
 家具や食器など殆ど捨てるか置いてきたので、二人で少しずつ揃えている。休みにあちこち見て歩く。今回は本棚。やっと全巻揃えた「ジャンプ」の「ワンピース」。本棚がない。あちこち見て周り、やっと、小樽のアウトレットで見つけた。背丈ほどの高さにコミック10冊程度の横幅。真っ白い本棚。「これいいね。」「かわいい。」うちへ帰って、二人で組み立てテレビの横に。華奢だが、見栄えはいい。次は、寝室用のテーブル。灰皿とお酒のグラスが乗る。札幌ビール工場跡の「ファクトリー」の店で見つけた。高さ30センチ。細長い天板と大きな灰皿付が着いている。畳の部屋に敷いた厚いマットに丁度合う。寝酒に丁度いい。「かんぱ〜い!」「丁度いいね。すごくいいね。」実は、どちらも、バーゲン品。どちらの値段も、二人とも大好きで月1で行っている焼き鳥屋一回分の節約で買えた。
 「電車男」の映画で、最後に、彼女がなぜあんな彼を好きになったか?のシーンがある。
彼が彼女の部屋から帰った後、彼が色違いの角砂糖をピラミッドのように積んでいるのをエルメスが見つける。彼女はそれを見て、「うふっ」と微笑む。月が綺麗だと言って写メを彼女に送る。また「うふっ」と彼女が微笑む。彼女は言う。「小さい幸せの積み重ねが大きな愛になった。」と。恐らく、小さな幸せ探しは、思いやりの発見。僕もそう思う。小さな幸せ探しは愛を育む。


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