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作品名:居場所ーpremium loveー 作者:yossy

第11回   姉の気持ち
10月、11月と月を追う毎に急速に、ヘモグロビン値(血糖値は薬で下がっていたが、糖尿病の改善はこの数値で解るそうだ。)が大幅に下がってきた。12月には、まだインスリンの注射は打っていたが、ヘモグロビン値は正常値範囲内まで下がった。「随分、下がりましたね。」「本当ですか!妻が(この頃から妻と言うようになっていた。)、色々、食事を考えてくれるんで。」「彼女に感謝しないといけませんね。」入院中に、先生も会っていた。「こんなに早く、普通は下がらないんだけど。」10月初旬、かつらは、仕事を辞め、家事に専念。相変わらず、4時になると、体が重くなり、無理してもしょうがないので、会社から毎日3時頃、帰宅することにしていた。家事専念は、最初、欲求不満にならないかと心配したが、いたって本人は、「うちにいても、やる事いっぱいあって。」と気にしていないようだった。僕にとっても、かつらがいてくれる毎日は新婚生活のようで楽しかった。接待などは、代わってもらっていたので、うちから会社、会社からうちへの生活が続いた。朝、マンションの7階のベランダから、手を振って、見えなくなるまで見送ってくれる。朝、色々仕事の事を考えると、出社は憂鬱なものだが、手を振る彼女の姿に背中を押されて、なんとか出掛ける事が出来た。帰ってくると、玄関まで走って迎えに来てくれる。一日の疲れが吹っ飛んでしまう。切り替えが出来た。うちの中は、いつも綺麗にしてある。綺麗にしてある我が家へ帰るのは気持ちがいい。「ビールにする?」「一緒に飲もう!」「いいね!」きっと、それを聞いてうらやむ男性諸氏も多いかと思うが、ともあれ、こんな生活が始まった。
 週末は、二人で映画に出掛け、帰りに、食事。行きつけの店も出来た。日曜は、コーヒーを買いに、ドライブ。ついでに、昼食。帰りは、スーパーで、一週間分の買い物。仕事に行っている以外はいつも一緒だった。二人の間にルールなどない。お互いを思いやる事を大事にした。一人暮らしで何でもやっていたので、自分で家事をする事はそんなに苦ではなかったが、逆に、大変さも解ったので、思いやる気持ちを大事にしたかった。ちょっとでいいから手伝ってあげる。生理痛で体調の悪いときには、出前にしたり、掃除や食器洗いを手伝ったり、買い物の時には、一緒に話し合いながら、これを買おう、これは止めようって決めたり、一緒にやる事が大事だと思った。ようは思いやりなのである。前にも話したように、二人とも、映画好き、ドラマ好きなのであるが、そんな日々にアメリカのドラマの「24」に二人で嵌った。嵌りに嵌って5部を半月で見た。24時間×5部で120時間である。休みの日なんか、殆ど、一日中、二人で、見ていた。前から思っていたのだが、感性は似ている。好きな映画も殆ど一緒、次に見たい映画を決めるとき、同じ事が多い。ひどい映画は、見た後、二人で、こき下ろす。感動の映画は、二人で涙を流す。彼女は言う。「歳の差、感じたことないね。」二人で、暮らしてからの方がお互い無くてはならない存在となっていった。彼女のお見舞いから始まった二人の関係は最初から遠慮なんかしなかった。言いたいことを言い合った。それでも、日増しに、一緒にいたいと思うようになった。最初から、背伸びした関係ではなかったので、一緒に暮らしても変わりなかった。一緒に暮らしてから、「何にも変わらないね。」とよく彼女が言った。彼女はむしろ変わった。素を自然に見せられるようになった。優しさと思いやりが増した。一段といい女になってきた。
 そんな日々はあっという間に過ぎた。年が明け、母の一周忌が近づいていた。僕は、自分の親戚がいっぱい集まるその席にかつらを連れて行くという計画を実行に移そうとしていた。姉に相談した。姉は、「遊びに来るのはいいけど、結婚してないで、二人で一周忌に来るのは問題がある。」と反対した。確かに、正式な妻ではないが、かつらの父の許可さえ得られれば、籍は入れつもりだった。親戚の皆に会わせるチャンスは他に無い。正式に結婚披露宴はしないつもりなので、その場を借りたかった。姉は、がんとして聞かない。「だったら、僕は一周忌に行かない。」無茶は解っていたが、なんとしても、そうしたかった。
 数日後、再び姉から電話が来た。「二人で来てもいいよ。お兄ちゃんに相談したら、僕が許すって言ってたから。」一周忌の主催者は兄なので、兄次第だと言うことだった。「私は、ちょっと誤解していた。お兄ちゃんは二人の事をすでに認めていた。お兄ちゃんがそう二人に言った。それに、今の段階で入籍まで行けない理由もわかった。二人の気持ちは解った。謝る。」という内容だった。ちょっと前に、かつらの父がやっていた会社が倒産した。すでに経営から離れていたが、負債は背負うことになった。混乱している時期でもあり、暫く様子を見て、父の許可を得るつもりと兄には話していた。実際そうであったが、桂は、連れて行きたのはやまやまだったが、この時点で父のことを考えれば、岩手に僕を連れていくつもりはなかった。それでも、いつか実現するのを信じて、兄にはそう言っていた。僕にとっては、一周忌に桂を連れて行く事が岩手に繋がっていた。強引ではあったが二人で一周忌に向った。


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