で、その時は直ぐやってきてしまった。 原稿は書けたし、見直しもした。 だから、あとは読むだけなんだけど。
「どうしよ・・・自信ない」 「なんで? そのまま読み上げればいーだけなんでしょ?」 朝のHR前の教室。私は真希ちゃんと机を挟んで向き合って、原稿用紙片手に・・・うん、完全にテンパってる。 「そーなんだけど、できあがったの結局今日の朝で、 読む練習とか全然出来てなくって、もう、もう緊張してるしっ!! きちんと読める気が・・・・気が・・・・しない」 冗談でも、テストの日に自信あるくせに、勉強やってきてないとか言うそれでは、全くない。 あ〜もう、すでに緊張してるから、手もなんか、力入んないし。 「大丈夫だって。翠が思ったことを、そのまんま書いたんでしょ? だったら、一言一句ちゃんと読めなくたって、いいし。 その方が心が伝わる位だと思うし、翠の想いってことに、違いはないし」 「・・・・・そうかな」 「そうそうっ」 「真希ちゃん・・・・推薦書のタイトル・・・・聞かないの?」 「ん? いや、私、翠が思ってる以上に、楽しみにしてるから――きかない。」 「うっ、ハードル上げてきた」 「ははは、飛べる飛べるこんなもんだって、こんなもん」 笑う佳人の親指と人差し指で作られた輪っかの間、およそ4cm。さすがに、飛べます。 「さっきも言ったけどさ、間違いなんてないんだから、 思いの丈を堂々と発表してきたらいいよっ。 そしたら、私、その本きっとまた読むからさっ」 「真希ちゃん―――やっぱり、体育会系」 けど・・・・ありがとう。 あ〜〜なんか、もう涙出てきそうだ。 私はきっとすごい幸せ者なんだ。
でも、真希ちゃんがその本を読むことは―――ない。 本当は別の本を推薦しようと思っていたけれど、あの日、真希ちゃんが良いって言ってくれたから、私はレポートに書いた本を紹介することにしたのだから。 でも―・・・、も一度読んでくれるってこともあるかもしれない な、真希ちゃんなら。
お昼休みを告げる鐘が鳴る。 こんな小さなこと、だけど私には大一番。
「じゃあ、いってくるね」 笑ってガッツポーズをくれる真希ちゃん。
帰路が凱旋となるように・・・・と歩む廊下。 手には原稿と、それに巻かれた景気づけの推薦書が一冊。 誰もが知ってる明治の大先生の代表作のひとつ、教科書でもお馴染みの作品を私は推薦することにした。
|
|