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作品名:牧場の歌 作者:史緒

第2回   2
 で、その時は直ぐやってきてしまった。
 原稿は書けたし、見直しもした。
 だから、あとは読むだけなんだけど。

「どうしよ・・・自信ない」
「なんで? そのまま読み上げればいーだけなんでしょ?」
 朝のHR前の教室。私は真希ちゃんと机を挟んで向き合って、原稿用紙片手に・・・うん、完全にテンパってる。
「そーなんだけど、できあがったの結局今日の朝で、
 読む練習とか全然出来てなくって、もう、もう緊張してるしっ!!
 きちんと読める気が・・・・気が・・・・しない」
 冗談でも、テストの日に自信あるくせに、勉強やってきてないとか言うそれでは、全くない。
 あ〜もう、すでに緊張してるから、手もなんか、力入んないし。 
「大丈夫だって。翠が思ったことを、そのまんま書いたんでしょ?
 だったら、一言一句ちゃんと読めなくたって、いいし。
 その方が心が伝わる位だと思うし、翠の想いってことに、違いはないし」
「・・・・・そうかな」
「そうそうっ」
「真希ちゃん・・・・推薦書のタイトル・・・・聞かないの?」
「ん?
 いや、私、翠が思ってる以上に、楽しみにしてるから――きかない。」
「うっ、ハードル上げてきた」
「ははは、飛べる飛べるこんなもんだって、こんなもん」
 笑う佳人の親指と人差し指で作られた輪っかの間、およそ4cm。さすがに、飛べます。
「さっきも言ったけどさ、間違いなんてないんだから、
 思いの丈を堂々と発表してきたらいいよっ。
 そしたら、私、その本きっとまた読むからさっ」
「真希ちゃん―――やっぱり、体育会系」
 けど・・・・ありがとう。
 あ〜〜なんか、もう涙出てきそうだ。
 私はきっとすごい幸せ者なんだ。


 でも、真希ちゃんがその本を読むことは―――ない。
 本当は別の本を推薦しようと思っていたけれど、あの日、真希ちゃんが良いって言ってくれたから、私はレポートに書いた本を紹介することにしたのだから。
 
 でも―・・・、も一度読んでくれるってこともあるかもしれない な、真希ちゃんなら。

 お昼休みを告げる鐘が鳴る。
 こんな小さなこと、だけど私には大一番。

「じゃあ、いってくるね」
 笑ってガッツポーズをくれる真希ちゃん。

 帰路が凱旋となるように・・・・と歩む廊下。
 手には原稿と、それに巻かれた景気づけの推薦書が一冊。
 誰もが知ってる明治の大先生の代表作のひとつ、教科書でもお馴染みの作品を私は推薦することにした。


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