真希ちゃんは私の幼馴染で親友だ。 スポーツも出来て、成績だって悪くないし、背もスラッと高くて、 天は二物を与えないって言うけど、ほんとずるいなぁって思うくらい、色々持ってて、 そこらの男共より、よっぽどずっとずっと格好いい。 勿論、真希ちゃんに憧れてる人は沢山いる。男女問わ・・・いや、どっちかといえば女性が。 私といえば、得意なスポーツもないし、理系はかなり苦手だし、(―それは英語苦手な真希ちゃんも一緒か・・) 顔も――― 体型も――――、いたってフツーな地味な学生で、どうして未だに真希ちゃんが私とずっと、たぶん自惚れでなく一番の友達でいてくれてるか不思議なくらい。 私には真希ちゃんとこうして友達で続けられる、手段が分からないんだけど、この登下校の時間があるだけで、すごく幸せだ。 私より真希ちゃんは背が10cm以上も高くて、その分歩幅も長いから、学校へと続くこの長い坂道を、いつも私のちょっと前を自転車をひきながら歩いてる。 今日も、二ヶ月前に新たに我が校の仲間となった新入りさんと共に私たちは一緒に、ちょっと前後にずれて並んで歩く。するのはいっつもくだんない、他愛もない話。
新緑を揺らした風が真希ちゃんの艶やかな癖のない黒髪もそっと揺らしてく。短いのにさらさらと。セーラー服のカラーからすっきりとした首と項が覗いて、私は急にドキドキする。 とっ! いや、いかんいかん、同学年の親友のしかも女性にドキドキするなんて、 どーかしてるぞ、私。
でも、しょーがない。 真希ちゃんはそこいらの男子よりずっとずっと格好よくて、きれーな、 私 の 親 友 ――― なんだから。
「そーいえばさー 翠(みどり)」 翠とは私の名前。 良くも悪くも思わないけど、真希ちゃんとの繋がりをくれたから、やっぱり好きな私の名前。 「うん。」 「今度の昼の校内放送に出るんでしょ?」 「うっ、・・・・うん 」 真希ちゃんがちょい斜め下の私の方に視線をくれる。 「いつだっけ?」 「あ・あさって」 そう、私は図書委員をしていて、部活とかせずにずっと図書館のカウンターに入り浸りする位、本が大好きなんだけれど・・・ ―― それを見込まれてというか ―― たぶん、色々と面倒だったからだろーけど、 読書週間における、読書強化の一貫として、校内放送にて推薦図書を紹介する役を獲てしまった ―――――。 「読書家=(イコール)文が上手いわけじゃないのに・・・」 私はただただ読むだけ。読んで世界に自分を馳せるだけ。 「ピアノが弾ける人が、歌が上手い・・とは限らないのと一緒でさ。・・・・全然違うのに」 はははと真希ちゃんが笑う。もぅ・・・。 「で、紹介するのは決まったの?」 「うん、それはね。一応。 でもさ、でもね、だからね、私は本を読むのが純粋に好きなだけなの、文を書くとか、ましてや誰かに聞かせるためにとかさ、しかもそれを校内放送でいうなんて―――、 勿論、お薦めの本はいっぱいいっぱいあるんだよ、でもさ、それを、いざ――――」 ・・・もう、胃が痛い。 「じゃーまだ文の方は、決まってワケだ」 「う゛・・・・」 そーです。痛いところを突くな、真希ちゃん。 こっちを向く顔がちょっとニヤついて見えるのはどうしてでしょ? 「そう・・・・そう、だから、いざね、いざ、書こうとしても、キンチョーするばっかで」 筆がちっとも。 「いいんじゃない?」 「?」 「翠の思ったように、そのまんまで。 あんま、あれも、これも、とか、格好よく書こうとすると、ボロ出るし、 翠、そんな器用じゃないじゃん」 「 ――――― 」 ご明察。 「だからさ、翠の気持が入っていれば良し。 それに・・・」 「?」 「それに、翠が前に書いてた感想文・・・あれは、レポートかな? すごく良かった」 「よっ、読んだのっ!」 「ごめん、なんか気になって、ちょ〜ど掃除の時、机の上にあってさ、“生きる”ってテーマなのに、内容は本の感想で、翠らしいなって読んじゃってた。ごめん」 「う〜・・・」 確かに、そんなのありました。担当の先生にもよく書けた感想文だねって言われました。 「でもさ、ほんと、正直よかった。この本好きなんだな〜って分かったし。 なにより、カンドーしたもん。 私、翠に薦められてんのに、そんな本読まないでしょ? でもさ、その本は買って読んだんだ。 レポート読んだの内緒だから、こっそりと」 「・・・・」 「だから、翠の言葉はきっといいし、――― 私は 好きだよ 」
う・・・うわっ、うわっ、顔が熱い。 真希ちゃんは、ずるいっ!! こうやって、直ぐ殺し文句をサラって言ってのけるんだ。 なんていったけ、こういうの、ハバネロ・・ん?ハバネラ。でも、歌じゃないから・・・カルメンか、いや・・・どっちかといえば、そう、ドン・ファン・・・。しかも、天然な、余計 ―――― たちの悪い。 私の頬は熱くなって、きっと赤くなってる、プレッシャーかけるなぁ〜〜とか言いつつ、顔を見られないよーに俯いて、小走りで必死に自転車をひいて、坂をのぼる。 よしっ、真希ちゃんより前に出た。これで、顔は見えないはず。 あ〜〜こんなに、春って暑かったっけ?
それでも、不思議。 真希ちゃんに、そう言われると、あんなに嫌だった放送も大丈夫な気になってきたし、真希ちゃんにそう思って聞いてもらえるなら、楽しいとすら思えてくるではないか。 うん、よしっ、頑張ろうっ!!
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