「予想以上によろしくないね。」 スラム街に入ると、ランベリーがつぶやいた。確かにスラム街は汚く、予想以上に治安維持のなされていない雰囲気であったが、明らかに異常な光景がそこにあった。ネズミが猫を喰らっているのだ。 「シュバー!」 先ほどのつぶやきとはうって変わって、ランベリーの語調は厳しかった。 「はい!」 シュバインシュタイガーは素早く弓をひくと矢を射った。矢は一直線に飛んでいき、ネズミと猫の死骸を貫いた。 「モンスターを狩るときに重要なことが二つある。一つ目は、もしモンスターが食べていたものがあれば、それも同時に始末するということだ。その餌をほかの動物が食らうことにより、モンスター化してしまうという研究実績がある。二つ目は、自分が攻撃を受けないこと。一ヶ所や二ヶ所噛まれた、引っ掻かれた程度であればすぐに対処すればどうということもない。今は抗体もあるし、医学が解決してくれる。しかし5か所を超えてくるとさすがに危険だ。発狂し、モンスター化してしまう。戻す手立てはないと思ってくれ。なるべく攻撃を受けないように気をつけながら、モンスターを駆除し、もし攻撃を受けてしまった場合にはすぐに申し出てほしい。」 わかったかな?というように全員の顔を見渡し、ランベリーは続けた。 「これから小隊を二班に分ける。飛び道具を得意とする者、飛び道具も扱えるものはシュバーと共に町内の小動物を駆除して欲しい。理由は二点。小動物、とくにネズミは動きが速い。あまり近づいて戦うのは危険だ。もう一点は町内で剣や槍等を振り回したくない。」 話の途中で相手の顔を見渡すのが癖なのか、ランベリーは再び、分かったかな?というように全員の顔を見渡した。 「それでは、残りの者は私と町内の情報収集だ。どっちの方向からどんな動物が侵入してくるのか捜査する。」 偶然にも、アカデミー出身者とそうでないものとに分かれた。アカデミー出身の3名はいずれも副戦武器に飛び道具を選択しておらず、弓矢などは苦手な部類だった。 「それでは解散。シュバー、なるべく急いでね。」 ランベリーの言葉を聞くと、小隊は二部隊に分かれた。 「動物はモンスター化しても動物時代の習性を忘れない。スラム街にいる動物であれば、飲食店の裏や、ごみ置き場にたむろするだろうと思うんだ。どう思う?」 シュバインシュタイガーの呼び掛けに対しある者はうなずきある者はそう思うよと答えた。 「急ごうよ。近くから順にごみ置き場を捜して、しらみつぶしに終わらせよう。」 ノリス・マグアイアの言葉は少し苛立ちを含んでいた。その苛立ちの正体がこの時点ではシュバインシュタイガーには分からなかった。 「少し待ってくれ。」 「なぜ?」 シュバインシュタイガーの言葉に間髪置かずアンドレ・ロックが尋ねた。彼もまた、少し苛立っているように感じられた。 「先の隊長の言葉を覚えているか?ごみ置き場で一匹のモンスターネズミがごみを食べたら、そこでごみを食べた全てのネズミがモンスターだということになる。これから行くところはモンスターだらけのはずだ。それを念頭に置いて行こう。」 かくして四人はごみ置き場を探し始めたものの、シュバインシュタイガーとほかの3人との間には壁が感じられた。そして、その壁の内容はごみ置き場を見つけネズミを狩り始めると明らかになった。
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