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作品名:ヴェロニア王国物語 作者:リューシュ

第5回   5
執務室に呼ばれた三人と小隊の仲間は、本営に入った。本営は宿舎より綺麗なものと考えていた三人は、とても驚いた。本営は極めて質素で、飾り気がなかったのだ。「シュバー」と団長から呼ばれた、シュバインシュタイガー・ラルドルフは、過去に王都騎士団の一員だったようだから、驚いている様子はなかったが、他の隊員は三人同様に驚いていた。メンバーは、談笑しながら執務室を目指した。執務室の場所も、シュバインシュタイガーが知っているため、迷うことはなかった。
「ここだよ。入るよ。」
言うなりノックをして、扉を開けた。
「お呼び預かりました、新小隊です。失礼します。」
シュバインシュタイガーの挨拶に、ランベリーが応えた。
「久しぶりだね。おかえり、シュバー。」
「お久しぶりです、隊長!お元気そうで何よりです。」
「私はもう、隊長じゃないよ。副長、だ。そして何より、今は君が隊長だろう?」
「いえ、自分は副隊長と言われました。隊長のもとでまた働けるのが、嬉しいです。」
どうやら、ランベリーは、シュバインシュタイガーが王都騎士団に初めて配属された時の隊の、隊長だったようだ。二人は更に少しの間、再会を喜んだ。
「さて、今日来てもらったのは他でもない、早速任務に就いて欲しいからなんだ。今回の任務は簡単なものだが、皆の能力を把握するために、私も引率することとなっている。実際には現場の指揮は、シュバーに一任する。私は、見てるだけ。戦力には数えないでくれ。まぁ、無論、ヤバいと判断すれば、すぐに助けるが、それは特例だ。良いかな?」
「はい!」
シュバインシュタイガーが返事をしたあと、遅れて他の者達も返事をした。そのあと、ランベリーの要求で、朝礼でしたような簡単な自己紹介を行った。名前だけの極々簡単なものだが、残りの部分は移動と実戦で見るからいい、ということなのかも知れない。
「それでは、任務の話に移るよ。現在、世界規模でモンスターが増殖していることは知っているね?モンスターは元々世界に住んでいた野生動物が、何かのきっかけで好戦的に人を襲うようになってしまったものを指す。モンスター化の原因には、野生動物にモンスターが影響をもたらすというのが通説だね。最初はどうしてモンスターが発生してしまったかはわからない。しかし、モンスターが野生動物に接触することにより、新たなモンスターが増えている事実は間違いない。ヴェロニアは自然豊かな国土に恵まれ、動物も数多く生息している。現在ではモンスターも多く生息していると言い換えられる。その一部が、王都のスラム街へ侵入してくるという話を受けている。これを退治して欲しいという依頼が届いたのは今朝だ。スラム街には多くの野良猫やネズミなど小動物が住んでいる。そのため、この依頼の重要性は極めて高いと位置付けている。半面依頼自体は簡単だ。王都付近には大型肉食動物はすんでいないため、モンスター化しているとはいえ侵入しているのは元は小型の動物だ。実際のところ住民の方でも追っ払うことはできるだろうし、現にそうしているだろう。しかし、この問題は根を絶たなければならない。スラム街に住む小動物がすべてモンスター化してからでは遅いからだ。スラム街住民の方から、モンスターが侵入してくる方角と侵入してくるモンスターの種類を入念に聞き出し、問題の禍根を断ちにいく。準備を終えたらすぐに出発したい。何分後であれば出発できる?」
「一時間あれば出発の準備を整えられます。」
ランベリーの問いかけに対し即座にランが答えた。現実的な時間であり、模範的な態度であると思われたが、ランベリーは顔をしかめ首を横に振った。
「君は、アカデミー出身だったね。まずは騎士としての感覚を入念に磨かないといけないようだ。確かに訓練であれば、それで良いだろう。しかし、これは任務だ。確かに私は急いでいるとは言わなかったが、そのニュアンスは伝えたつもりだ。十分な準備が必要な任務ではない。なぜなら相手は小型のモンスターだからだ。簡単な装備を整えてできる限り早く出発するにはどのくらいの時間が必要か?今はそう問われたんだよ。2、3日の遠征にでも出かけるつもりだったのかい?」
思わず顔を下に向けたのは何もラン一人ではなかった。アカデミーはもとより、小さな私設騎士団でもこうした任務が生じることはあまりない。
「15分もあれば十分だろう。急いで宿舎へ戻り、装備を持ってここへ来なさい。」
はい、という返事とともに7人は一斉に宿舎へと戻った。執務室から宿舎までは急いでも5分はかかる。15分後、執務室へ戻った7人はランベリーに先導され、スラム街へと向かった。向かう途中、
「人は失敗の数だけ成長するものだ。逆にいえば、失敗を知らないものは成長しない。少なくともその人間ができる最大限の成長をすることはできない。重要なのは失敗しないように気をつけることではなく、失敗を恐れない強い勇気だ。特に、自分より経験豊富な人間がそばにいるときは、失敗してもかまわない。なぜなら、それをフォローするのが経験豊富な人間の務めの一つでもあるからだ。先ほどのエルロイの答えは問いかけに対しいち早く自分の考えを上に伝えるという点において、満点だ。回答の内容は経験が解決してくれるからね。今後もその対応を貫いてほしい。」
全員が勇気づけられる言葉だった。失敗が許されることに甘えるわけではないが、挑戦しやすい環境がそこにあった。


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