さて、今期の卒業生は3名。成績上位の3名が全員騎士の資格ありとみなされ、騎士としての生活へ歩きだす。 「それでは今期の卒業生を発表する!今期の卒業生は、3名!」 このアカデミー長の声に生徒が上げた歓声だった。自信のある者はもとより、そうでなくても、3名全員が合格という事実が、期待を膨らませた。 「今期第一位!在籍三期、登録得意武器、槍、ラン……」 「うわぁ!!!」 すさまじい歓声が講堂を満たした。同期の生徒は、卒業間違いなしと噂していた生徒の主席卒業に景気の良い歓喜の声が上がった。アカデミーでは食糧調達と慰問活動を同期生でグループを組んで行うため、同期生同士はとても仲良くなる。そんな中でもこの生徒の人気は群を抜いていた。教員さえがこのリーダーシップは騎士団に入りすぐに通用すると入所当初から期待していた逸材なのだ。 「おめでとう、ラン!!」 「騎士団に入っても非番の時は遊びに来いよ!」 「また一緒に訓練しような!」 喜びを爆発させるランの同期生の声の中でアカデミーでは聞くことのないはずの高く、澄んだ声が答えた。 「ちょっ…ちょっとぉ、恥ずかしいからやめてよぉ。」 同期生以外の生徒も、一人目の卒業生が決まったことに思い思いの声を上げていた。その小さなざわつきが重なり集まり、大きなどよめきを作り出した。そのどよめきは低く重いものだっただけに、高く落ち着いた声の響きはとても印象的で、全てのざわめきを黙らせた。静かになった講堂を赤い髪を翻らせ、一人の女性が前の壇上を目指し歩いていった。 「今期第一位!在籍三期、登録得意武器、槍、ラン・エルロイ。総得点378。」 このアナウンスにランが口を手でおさえ立ち止まった。遅れてすさまじい歓声がなり響いた。在籍3年で378点。平均すると一年で126点ということになるのだ。何という異才!本人さえその点数に驚き立ち止まるほどの高得点に、会場の歓声は止まらなかった。そんな大歓声の中で次の名前が呼ばれた。 「今期第二位、在籍5期、登録得意武器レイピア。アウルス・イシュトバーン。総得点 352点」 この得点は間違いなく高い。一年に70点取っているのだから平均から考えれば彼もまた天才の類なのだ。しかし、ランの異常な得点と目立つ出で立ち、女性という何よりもの特徴に支配された空間を揺るがすほどのものを、彼は何一つ持っていなかった。同期生が幾人も諦めてやめたために、たった一人しか残っていない同期生から、祝の言葉を受けたあと、淡々と壇上に上り、ランに 「君は凄いね。君のような人と一緒に卒業できて、とても嬉しいよ。」 と、声をかけた。その間ランを称える会場の声がなりやむ事はなく、まるで壇上には一人の卒業生しかいないようだった。 「今期第三位、在籍…」 突然アカデミー長の声が止まった。会場の大騒ぎが少し収まり、どうしたことだと、会場がアカデミー長の声に耳を傾けた。 「うぉっほぉん。こ、今期第三位は在籍二期目のアルベルト・シュバイツ。登録得意武器 太剣。総得点…総得点は308点。」 シンと会場から声が消え失せた。何人かが小声で「まじかよ」「嘘だろ」という声がはっきりと聞こえた。それほどに、会場から音が消えていた。 入所試験から話題になったのだ。人呼んで「皆殺しのアルベルト。」彼に同期生はいない。何故なら、受験生を全員彼が殺してしまったから。一次試験から対戦相手を死に至らしめ、二次試験では彼と試合をした5名全員を殺した。残りの2名は彼と試合をしたくないがために棄権。アルベルトがその異業をもっても入所を許可されたのは彼の技術にある。太く大きい太剣、その中でもひときわ大きい彼の剣でも、その切っ先で器用に対戦相手の首筋を切っていったのだ。注記すべきは、それは木製であること。その凄まじい技術を買われ、合格となった。その試験から数日の間に、アルベルトのことを知らないアカデミー生はいなくなった。しかし、その異常な所業の反面、生徒としては模範生で、周囲からは避けられていたものの、成績は歴代トップクラスだろう。そう思われていた。彼は言う。 「彼等は実力が足りな過ぎた。だからこそ、僕のあんなにでかい剣を受けることもかわすこともできずに死んだのさ。」 その言葉の通り今期のトーナメント優勝者として騎士に挑んだ戦いでは彼の剣は受けられているし、トーナメントでは死亡者は出ていない。彼が極めて優秀なことは、周囲の評価からも、そして発表された、一期につき154点という点数からも明らかであるが、それでも、騎士としては、まだ、通用するレベルではない。その剣を受けられなかった以上、それは、確かに、アカデミーを目指すものとしてのレベルに、達していなかったのかもしれない。それは、いまや、はかり知ることは出来ない。 アルベルトが壇上に上り、静まりかえった中で、三人に卒業証書と騎士の証が与えられた。ここに新たな三人の騎士が誕生した。二人の大天才と一人の準天才、そのくらいの差はある三人が並び、騎士見習いから、騎士へとあるきだした。この物語は、そんな三人の話である。
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