20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:ヴェロニア王国物語 作者:リューシュ

第1回   1
ヴェロニア王国物語
プロローグ
 まぶしい日差しが、大地を照らしている。西には深い谷川。北には崖、その向こうには湖が広がる。南方のなだらかな傾斜には舗装された道が続く。その道の東側に深い森が広がっている。舗装された道はやがて都へ通ずるのだが、そこまで結構な距離がある。この大きな丘は恵みの丘と呼ばれ、森の木々の多くは食用の実をならせ、動物を育んだ。北方に広がる湖は水が澄み切って、もっとも深いところでも底が見える。急流の谷川が流れ込んでいるため、湖は絶えず水が流れている。その流れの速いところと遅いところの差が大きいためか、多種の魚が住み、それもまた人々に恵みをもたらした。そんな丘の頂上にこの大きな施設が出来てずいぶんと経つ。先々代の国王が隣国との戦争に備えて、優秀な騎士を養成すべく作った施設なのだ。この丘は、古くから国内有数の恵みをもたらす土地であったため、この計画には反対も多かった。広大な丘とはいえ、その一部を伐採し、厩舎をはじめとする建物と訓練施設を建てることは、森のバランスを崩し、それまで育まれてきた生命を激減させてしまうことが恐れられた。しかし、今ではこの施設の設立は英断だったとされている。国内の治安の改善は思うようにははかどらず、他国の戦争は激化する一方で、ヴェロニアが大戦争に巻き込まれることなく、ある程度の平和を維持しているのはこの施設が生んだ数多くの英雄の力が大きいことが一つ。もう一つに、森に住む生命と、施設との共生がなに不自由なく実現したため、森のバランスが崩れなかったからだ。この丘は、以前と同様に国内に恵みをもたらすばかりか、施設の訓練生の自給自足を可能にした。施設では一部の動物を家畜として飼育しているほか、森になる野菜・果物・木の実を採取し、湖の魚を釣るなどして、自分たちの食料は自分たちで補っている。

「わぁ〜!」
と大きな歓声が上がった。静かな丘に佇む講堂の、揺れるような歓声に森に住む鳥達が驚き、強い日差しに羽を羽ばたかせた。丘の頂上にある王立アカデミーと名づけられたこの施設の中でも、ひときわ大きな建物に人が集まっている。この建物は毎年アカデミーの入所式や卒業式などの、各種祭典を催す講堂である。今日はこの機関の卒業式の日である。
アカデミーには何歳からでも入所でき、何年でもいることが出来る。施設では、訓練の他に先ほどの食料調達を自分たちで行う。更に、国内における慰問活動を行っており、それを行うことで国から給料が給付される。国からすれば、安値で人員を雇え、騎士への道を目指すものには、まともな生活が約束された施設に入れるのだから、どちらも願ったり叶ったりというシステムだ。ただし、入所のためには実技試験があり、これに通過しなければ入所できない。アカデミーでは卒業式〜卒業式を一期間としているが、その間に入所を希望したものをトーナメント方式で戦わせ上位8名を選出。これが一次審査である。勝ち負けの基準は本人の申告によるものとしているため、「参った」というか、戦闘不能状態に陥る、もしくは一方の死亡によって勝者が決まる。試験ではいかなる武器の使用も許されるが、全て木製であることが条件になっている。そうすることにより、少しでも死亡者を減らそうというのだ。逆に言えばそうした措置をとらねばならぬほどに死亡する危険性は高い。シビアなようだが、この世界に足を踏み込むとはそういうことなのだ、と入所試験の段階で体に教え込むのだ。とはいっても、この時点では、志願者の実力もまちまちで、戦闘不能者が出ることは少なく、ましてや死亡者が出ることはほとんどない。突出した才能を持つものや、入所試験の経験者など戦闘に長けたものが、圧倒的な力で勝ち上がっていくからである。
しかし、この後の二次審査では、毎年流血は確実に起こり、3度に一度は死亡者も出ている。これはあくまで平均であるから、異端児が試験を受ける年には、一回で数人が死亡することさえある。二次審査では、上位8名による総当りが行われる。総当たり戦の成績に加え、アカデミー教官全員が資質を見定め合格者を決める。このため、8名全員が合格となる可能性もある。当然前半戦で戦闘不能者が出れば、そのものは不戦敗となる。そのため序盤では、勝てないと思えばその後の勝ちを考え、「参った」宣告する者もいる。が、終盤戦では、「もう一戦も落とせない」「せっかくここまで勝ち残ったのだから」という心理が働き「参った」による勝敗は少なくなり、流血しながらの戦闘も多くなるのだ。ただ、死亡に関しては逆で、序盤に多い。結局のところ、殺してしまう人間は異端者が多いのだ。ライバルとは言え合格すればその後は寝食を供にする同期生となる。それでも殺せてしまう、そうしたものが、殺す。序盤で一人殺しておけば、後半で有利になるからである。周りの深層心理に、「やつは平然と殺す」という恐怖心を否応無く植えつけることで合格しようという考えである。こうして審査を合格してきた者が、入所後は卒業をかけて争うことになる。

ヴェロニア王国。ここでは騎士養成の機関としてこの王立アカデミーがある。毎年成績上位3名が王都騎士団に編入されるこの機関で、今年も3名の騎士見習いが騎士への道を行く。王都騎士団では点数の積み重ねにより成績が決まる。1年間満点を取れば200点をもらえる。ペーパーで50点。個人実技で100点。戦術実技で50点、だ。前述のとおり、何年でもいることができる施設であるから、何年も在籍すればその分点数を積み上げることができる。
ペーパー試験は騎士としての心得や騎士団の規則を問う問題を解く。この試験の半分は正解がない。規則は覚えれば満点をとれるが心得はそうはいかない。ケースバイケースで「こんなとき自分ならどうするか」を問われる。自分の能力を熟知しているか、その能力を充分に活かせているか、試験者の選択の成功率はどうなのか、その選択が、騎士団ひいては国にどういった影響をもたらすのか、これらの事を試験者はどの程度把握できているのか。答案から得られる情報をアカデミーの教員が総合的に判断した結果点数をつけられる。「正解がない」というと語弊があるが、正解は生徒一人一人によって違うのだ。減点方式でつけられるためほとんどの生徒の答案に一桁の点数しかつかない。とアカデミー生の間では噂されている。
個人実技は得意とする武器による試験が50点満点。その他の武器による試験が50点満点。その他の武器は5つを扱い各10点満点で評価される。入所時に得意武器と副戦武器の登録がある。得意武器1つと副戦武器5つの登録を行い、それに従い日々の訓練を行う。どの武器も担当教員がつくが、一日の間にどの武器の訓練を受けるかは、個人の自由となる。極論すれば10点捨てて期間中で一つの武器は一度も訓練を受けないというのも可能なのだ。どの武器についても1期間の訓練を通じて、技術を総合的に判断し10点満点の点数がつけられる。得意武器についてはトーナメントによるアカデミー生同士の勝抜き戦が期間中に2度行われる。この成績が優勝15点、準優勝10点、ベスト4が5点、ベスト8が4点、ベスト16が3点、一勝した生徒に1点で評価され、二度の成績の合計点上位3名に更に5点が与えられる。最も成績の良いものには、アカデミー卒業生の騎士の中でもトップクラスの騎士との対戦が許され、その内容を、対戦した騎士が5点満点で評価する。トーナメントを二度優勝し騎士から満点をもらえば40点を得られ、普段の訓練の内容も10点を得れば満点となる。念のため書き加えておくと、事実上不可能である。
戦術実技はシミュレーションのディスカッションを繰り返す。これも一年に何回参加するかは生徒の選択次第で、個人実技の訓練ばかり参加し、戦術は0回でも構わない。この科目は加算制で一度のディスカッションでその判断の資質等を担当が判断し点数をつける。その際場合によりマイナス点がつくこともあり、回数を重ねたからといって、50点とは限らない。本人は何点を取ったかは知ることができない。この科目は理論上、一回の参加で50点がつくこともありうることになるが、50点以上の点数も加算されていく。本人は50点取っていることを知らないため、50点取ったあともディスカッションに参加しマイナス点をもらう可能性があるからだ。そうした生徒への救済として、期間中53点まで点数を積み重ねれば、期末まではその点数で評価される。期間を通じて50点以上取るとその期間の点数は50点となる。繰越しはされず来期はまた0点から積み上げる。
計算上200満点になるものの、多くの生徒は一期間に50点取ることができないのが現状だ。更に、その期間何点取ったか、トーナメントの結果の点数を除き、生徒は知ることができない。これが精神的なプレッシャーになる。例えば5期目の生徒がいたとして、毎期トーナメントでは一勝出来るか出来ないか。本人は自信を失うだろう。更に、本人が知る限り5期かけて点数はわずかに7点。自らの点数はトーナメントの結果以外わからないという状況が入所したものの中退、そんな生徒を多く作り出だす。逆に、それでも生き残り卒業する生徒は精神力が強く、経験も豊富な騎士となることができる。
とにかく一期間に200点満点で得た点数を競い、上位3名の中から騎士としてふさわしいと考えられるものが卒業生となる。但し、アカデミーでは点数が累計される。アカデミーに2期在籍し、一期目50点。二期目50点ならば合計成績は100点となるのだ。アカデミーでは、通常4〜8期程度で卒業するものが多い。一期に30点取ったとして8期で240点。極々平均的な生徒の成績だ。例年のトップ卒業生の得点は350点前後である。単純計算で、50点×7年ある程度の優秀さと7年続けられる根気が必要になるのだ。


次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 675