高野と俺はあの資料が見つかったという場所へ来ていた。 場所は山梨県の山奥だ。 そういえば武田家の本拠地は山梨県だったと俺は過去に高野の授業で習った事を思い出した。 周りを大木に囲まれていてその大木は俺達を見下ろすかのように先端付近が下を向いていた。 資料が発見されたという地層を見てみると少年が化石探しのときに掘ったと見られる穴がぽっかり開いていた。 「山中君、ここをもっと掘ってみたら違う資料が出てきそうだとは思わないかい?」 高野が独り言なのか俺に聞いているのか分からないような小さな声で言った。 「出てくるかもしれないですね…」と消極的に俺が言うと高野は携帯電話をポケットから取り出し通話をし始めた。
それから30分くらい経っただろう遠くからジープが走ってきた。 恐らく高野が発掘するための応援を呼んだのだろう。 ジープが俺たちの目の前でドリフトしながら止まった。 ジープのドアが開き出てきた人物を見てみるといかにも怖そうな大男が立っていた。 彼の身長が180cm以上あるの一目瞭然だ。 その男は体と合わない高く優しい声で「高野さんお久しぶりです」と高野に挨拶していた。 しばらく高野と男は雑談していたようだがちらっと俺のほうを見て 「あっ、こんにちは僕、長井雅和(ながいまさかず)25歳です、高野先生の元教え子で今は西部京大学の近くの波鷹(なみたか)大学考古学部の講師をしています。」 長ったらしい挨拶に俺は少しいらついたのだが自分も高野学級のOBと言う事から意外と話が盛り上がった。 しばらく話した後長井は急に最初の怖い面構えに戻りながら 「で、一体どうしたんですか?」 その怖い顔で俺の顔を凝視してきた。 「えーとですね…かくかくしかじか…」 あまりにも迫力がある為に俺は年下の長井に馬鹿みたいに敬語を使って話してしまった。 それを聞いた長井は驚いた様子でまた元の優しい顔つきに戻ったのだがその顔は俺にはカバにしか見えなかった。 長井は俺から視線をそらし高野を凝視し始めた。 だが高野はその目線をちっとも気に留めている様子は無かった。 「高野さん、それ本当ですか?万が一それが本当だったとしてどうしてそんな嘘をつく必要があったのでしょうか?」 長井が素朴な疑問を投げかける。 「それを今から調べるのだよ。そんな事も分からないのでは君もまだ半人前だね。」 高野が軽蔑したような目で長井を見る。 「いえいえ、一応聞いてみただけです。」 長井は高野の心情を読み取ったかのようにすかさず言い返した。 2人のやり取りに俺はただ笑うしかなかった。
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