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作品名:Ristorante Delizioso《リストランテ デリッツィオーソ》 作者:you

第9回   Cerca〜屋内探索
ドアノブを回して部屋の中へ入るとそこは10畳位は優にあるロフト付きの洋室だった。入って右手にベッド、その奥にクローゼット。左手には本棚とチェストが置いてあった。一人で生活するには十分なスペースだ。

「今日からここが私の家かぁ」

私は床に放置してあった幾つかのダンボール箱を跨いでベッドの上に腰掛けると、肩に掛けてあったスポーツバッグをそっと床の上に置いた。所狭しと床に散らばっているダンボール箱の正体は、事前にアンジェラが運び込んでくれた私の引越し荷物だった。
このお屋敷(寮)の全ての部屋にはすでにベッドやチェストなどが備え付けられていて、私が荷物として持ってくる物は洋服や鞄や靴など、生活に最低限必要な物だけで良かった。

私は一息付くと放置してあったダンボール箱の片付けにとりかかった。

「よいしょっ、」

まずは《洋服》と書かれてあったダンボール箱を両手で抱えると、部屋の奥にあるウォークインクローゼットに運び込んでガムテープを剥がした。クローゼットには背丈の高いハンガーラックと大型の収納ケースが設置されていて年頃の女の子を満足させるには十分な収納量だった。

「こんなのテレビかマンションのチラシでしか見たことないよ」

私は感動しながら手早くダンボール箱の中身をそれらに仕舞った。


床に転がっていた全てのダンボール箱の中身を片付け、ロフトに簡易式の室内干しスペースを作り終わる頃には、もう太陽が西に傾いていた。

「えっ、もうこんな時間!」

腕時計を見ると針は04:48を差していた。

「寮の事教えてもらわなくちゃ」

私は空になったダンボール箱をクローゼットに片付けると、足早に部屋を出た。

◇◇◇◇

部屋の扉を閉めて階段へ向かうと、食欲をそそるような香辛料の香りが鼻をついてきた。

「いい匂い。カレーかな?」

階段を下りながらキッチンを見ると、先程花壇で会った名波 一が鍋の中をお玉でかき混ぜていた。彼は階段を下りてくる私に気が付くと微笑みながら言葉をかけてきた。

「片付けは終わったの?」

「はい、何とか。カレーですか?いい匂いがする」

私は階段を下りてキッチンへ近づいた。

「そうだよ。今日はちょっと冷えるからスープカレーを作ってみたんだ」

そう言うと彼は嬉しそうに微笑んで、小皿に鍋の中の液体を注ぐ。

「味見してみる?結構美味しいと思うんだけど」

小皿を私の前に差し出すとはい、と言って小さなスプーンも一緒に渡してくれた。

「いいんですか?有難うございます!」

昼から何も口にしていなかった私は素直にそれを受け取ると、綺麗に平らげた。

「美味しいっ!お料理上手いんですね名波さんて。ご馳走さまでした」

「有難う。でもここにいれば皆上手くなるよ」

彼は空になった小皿を私から受け取るとそれをシンクで洗って食器棚に戻す。

「えっ?どうしてですか?」

私は彼の言葉の意味を尋ねた。すると彼は驚いたように瞳を大きく開いて私の顔を見た。

「あれ?オーナーから聞いてなかった?ここでの食事は当番制なんだよ。OFFの日とかは各自自由なんだけど、他の日は交替で食事を作るんだ。基本昼と夜はお店で賄いになるから、殆どは朝食なんだけど。僕は料理をするのが好きだからたまにOFFの日とかでも作ったりしちゃうんだよね」

彼はそういうと悪戯そうに笑った。
長身なスタイルとちょっとインテリを思わせる洗練された顔立ちをみると、私よりもかなり歳が上のように思えたが、今私の目の前で悪戯っぽく笑う彼は20歳の私とさほど歳の変わらない青年に見えた。

「あれ?もしかして君 僕に用があった?」

彼は鍋をかき混ぜていた手をとめると私に尋ねてきた。

「あ、いいんです、忙しいみたいだし。ちょっと寮の案内をして貰おうと思っただけですから。自分で勝手に歩き回ってみます」

私はじゃ、といってそこから離れようと彼に背を向けた。するとその後ろ姿に彼が言葉を掛けてきた。

「いいよ。あとこれ煮込むだけだから。20〜30分もあれば十分部屋を案内できるし」

彼は鍋の火を弱めると、エプロンを脱いで私に着いてきてくれた。

「よかった。助かります」

「じゃあ、まずは1階からかな」

それから彼と私は広い室内を隅々まで二人で歩き回った。

◇◇◇◇

まず名波 一は私に1階を案内してくれた。1階は寮生全員のパブリックスペースでリビングやテレビルーム、キッチン、サニタリーがあった。部屋の奥のテレビルームに連れて行かれた私は、目の前にある存在感ありありに鎮座する薄型テレビに目を奪われた。

「こんな大きなテレビ初めてみた…」

恐らく地デジ対応であるその超薄型テレビは何10インチもある程の大型で、きっと私が宝くじで大当てするかヤバイ事をしなければ一生お目にかかれる事の無い代物だった。

「そんなに感動してもらえると有難いなぁ。でも僕のじゃないけどね」

名波 一はそう言うと薄型テレビの下にあるローボードの扉を開いた。中にはHDDやTVゲーム、DVDなどがわんさかと入っている。

「この部屋は皆の娯楽部屋なんだ。ハードディスクもあるしTVゲームもある。ここにある物は皆の物だから断らなくても勝手に遊んでいいよ。それと…」

次に彼は壁際にある棚とカウンターを差した。

「あそこにはお酒もあるから、ここで一杯やってもいいし。あの奥の棚には色々なDVDが入っているから好きな映画も見られるよ」

私はカウンターと棚へ目をやる。イギリスのパブで見るようなアンティーク調のカウンターにウォッカやジン、リキュール等色々な種類のお酒が並べてあった。

「凄い数ですね」

私は驚きの顔を名波 一に向けた。

「でしょ?初めからこんなにあった訳じゃないよ。ここの連中皆お酒が好きだから、自分達で買ってきたりしたらこんなになっちゃった」

彼は ははは、と軽やかに笑った。

「そうなんですか」

「君はいくつ?もうお酒飲めるの?」

名波 一が興味深そうに尋ねてくる。

「20歳です。少しだったらお酒も飲めます」

私がそう言うと、彼は嬉しそうに微笑んだ。

「良かった。結構皆でお酒を飲む数が多いんだよ。それなら君も一緒に楽しめるね」

名波 一は満足そうな顔をした。
私は彼に先程から気になっていた事をきいた。

「名波さんて凄く落ち着いてる感じがしますけど、おいくつなんですか?」

彼は不思議そうな顔をする。

「僕が落ち着いてる?そんな風に見えるんだ。僕は24歳だよ。もっとオジサンに見られちゃったかな?」

少し悲しそうな顔をする。

「そ、そんなこと全然ないですっ!ただ落ち着いてて素敵だなって…」

私は顔が赤くなってしまった。
そんな私を見た彼は悪戯そうに微笑むとこう言った。

「素敵って赤い顔して言われてもなぁ…僕はそっちの気は無いんだけど」

「あっ、」

思わず口を両手で塞ぐ。

(やば、今私は男だった!こんな顔見られたらばれちゃう!)

私は俯いてしまった。恥ずかしくて俯いている私の頭上に彼の明るい笑い声が降ってきた。

「はははは、冗談だよ。君って素直で可愛いね。じゃあ次行こうか」

彼は未だに下を向きっぱなしの私を置き去りにしたまま、何事もなかったかのように部屋を出て行ってしまった。

「あ、待って下さい!」

私は急いで彼の後を追った。


◇◇◇◇

「ここがバスルーム」

扉を開くとそこには高級旅館の貸切風呂ほどもある大きなお風呂が広がっていた。優に家族全員で入れるくらいのスペースはある。奥にはサウナも見えた。

「サウナもあるんですか?」

「うん。高温サウナとスチームサウナ、それに湯船にはジェットが付いてる」

そう言うと彼は湯船の傍に付いていたパネルを開いた。

「ここを押すと泡が立つんだ。うちの風呂は至れり尽くせりだから健康ランドもいらないよ」

パネルの中のスイッチを押すと白い湯気を立てながら熱いお湯が流れ出てきた。

「これで良しっと、もうすぐ皆も帰ってくる頃だからお湯も溜めておかないとね」

彼は立ち上がると部屋を出て行こうとした。

「このお屋敷って、寮って言うよりちょっとした別荘ですね」

私は彼の背中を追いながら尋ねた。

「そうだね。ここって元々はオーナーの個人別荘だったらしいよ。彼女が自分の客を接待する為に建てたらしいんだけど、新しく寮を作るのも面倒だからここを寮にしちゃったんだって」

「へ〜。だからこんなに広くて何でもあるんだ」

「お風呂だって、ファミリーで来るお客さん用に作ったんだって。5人は一緒に入れるよ」

私はもう一度お風呂を振り返った。5人で入ってもまだ余るくらいの大きさはある。

「広いお風呂って憧れだったんだ〜」

先日まで小さな浴槽に膝を折って入っていた私は溜息をついた。
それを見ていた彼は私の顔を見るとニヤリとしてこう言った。

「じゃあ今度一緒に入ろうか?」

「!!!」

私の顔を見つめる名波 一。私は不覚にも又頬を赤く染めてしまった。慌てて下を向く。

「ぷっ、冗談冗談。ほんと可愛いね」

「ふ、ふざけないで下さいっ!わ、お俺だってそっちの気なんてありませんからっ!」

私は紅潮した顔を見られないように下を向いたまま、足早に彼の傍を通り過ぎた。

(冗談なのはどっちだっ、人で遊ぶな!!)

彼から距離を取ろうとスタスタと進む。

「待ってよ、そんなに怒んないでよ」

彼は困ったようなセリフを吐きつつもクスクスと笑いながら私の後を着いてきた。


◇◇◇◇

プライベートスペースである2階を簡単に紹介して貰って、私と名波 一はキッチンまで戻ってきた。

「ざっとこんな感じかな。分からない事があったらいつでも聞いて」

彼はカウンターに置いてあったエプロンを再びするといい感じだね、と言いながらお玉で鍋をかき混ぜた。

「もうそろそろお腹も減ってきた事だし、もし君に予定が無ければ一緒に夕飯なんてどう?」

彼は私に嬉しい相談を持ちかけてきてくれた。
実は先程カレーをテイスティングさせてもらってから、ずっと狙っていたのだ。スープカレーなんて名前を聞いた事があるくらいで、実際は口にしたことなど無かった。是非とも頂いてみたい。

「いいんですか?ご一緒しても」

「勿論だよ。多めに作ってあるし、お替りしても十分食べられるよ」

私は鍋の中を覗きこんだ。
カレー独特のあの茶黄色をしたルーの中に大振りなジャガイモや人参、チキンレッグにキャベツ、大根などカラフルな野菜たちがゴロゴロしていて私に食べられるのを待っていた。極めつけはこの鼻腔をくすぐる刺激的な香辛料の香り…

「じゃぁ、お言葉に甘えて。代わりに俺何か軽く作りますよ、簡単な物になっちゃうけど」

「お、それいいね。じゃあ僕も最後の仕上げにとりかかろうかな」

私達は隣あってキッチンに立つとお互いの作業を始めた。肩に触れる距離に男性がいるという事だけなのに、私は緊張感で足の先から頭の先まで一気に体内血液が逆流してしまったかのように火照ってしまった。

(ダメダメ、これじゃこの先どうなるのよっ!早くなれなくちゃ!)

緊張している顔が見られないよう下を向きながら名波 一を覗きみる。彼は何もないようにただ楽しそうにお米をといていた。


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