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作品名:Ristorante Delizioso《リストランテ デリッツィオーソ》 作者:you

第6回   Alleanza〜契約の条件
「今何て?」

私は加納冴子の言葉に自分の耳を疑った。
だってあり得ないもの。そんな事言うなんてあり得ないもの!

彼女は今からホンの三秒前、私にあり得ない言葉を放った。加納冴子はこう言ったのだ。

「では男性になって下さい」
と。

人は自分が信じられない事を見たり聞いたりすると、防衛本能が己の思考を守る為に無意識に脳内の思考を司る機能を停止させるらしい。今私は正にその状況に陥っていた。

私は加納冴子の言っている意味が理解出来なくて、口をぽっか〜んと開けたまま放心状態になってしまった。

「輪さん、輪さん大丈夫ですか?」

彼女は慌てて力強く私の体を揺する。何回か揺すられたお蔭でようやく私の思考回路も起動し始めた。

「どういう事ですか?」

機能が復活して最初に口をついて出た言葉はこれだった。だってそれしか言い様が無いのだ。

加納冴子は私が普通に戻った事を確認すると、諭すように話始めた。

「今現在のオーナーであるMs.アンジェラですが、ニコ氏から代理人を頼まれる迄はフードプランナーという仕事をされていました」

「フードプランナー?」

私が初めて聞く言葉に首を傾げていると、彼女はフードプランナーについて教えてくれた。

フードプランナーとは、経営不振に陥っている飲食店をリサーチし、建物や在所の立地条件やメニューの改善、はたまたスタッフや経営方法を見直してその店の再生に取り組む職業のことだという。ニコさんの妹であるオルガさんは敏腕フードプランナーで幾つもの飲食店を再建した実績を持っているらしい。

「へぇ〜」

私はMS.アンジェラの武勇伝を聞いて尊敬してしまった。聞けばMs.アンジェラはまだ30半ば。それなのに既にその世界ではかなりの有名人らしい。現役でバリバリ働いて社会的地位があるなんて、同じ女性として憧れてしまう。


あ、でもそれと男になるのといったいどんな繋がりがあるんだ?

私は今一つ話が読めなくて、顔を曇らせた。

「それで、」

そんな私にお構い無く加納冴子は話を続けた。

「ニコ氏からお店を任される条件として、Ms.アンジェラは一つの条件を上げました。以前より彼女はニコ氏のお店に来るたび気になっていた事があったそうです」

「気になっていた事?」

「はい」

「それって?」
「客層に合うお店に変えなければという事です」

「はぁ、」

客層に合うお店と聞いてもピンと来ない。レストランと言えば、ファミリーやカップル、そんな人達が来るのではないか?だったら別に普通に考えればいいのではないか?他にどんな客層だというのだろうか?


「Ms.アンジェラは女性をターゲットにしたお店にする事を条件にしました」

「女性をターゲット?」

加納冴子は大きく頷く。

「つまりは女性に受け容れられるお店です」

「女性に受け容れられる…?」


女性に受け容れられるお店っていったいどんな?私だったら安くて美味しくて雰囲気が良ければそれで充分だと思うのだけど?他に何があるのだろう。


「輪さんはRistorant Delizioso《リストランテ デリッツィオーソ》が今世間から何と呼ばれているかご存知ですか?」

彼女は続いて私に質問を投げ掛けた。

「いえ」

私は素直にそう答えた。実際この話が来るまで、父のお店とは関係を持っていなかったし、極貧生活のこの身ではイタリアンレストランなんて足を踏み入れる事すら出来ない。このお店が世間でどう言われてるかなんて全く分からない。
そんな困惑顔の私を見て加納冴子は闊達な声で答えた。

「イケメンレストランです」

「はぁ?????」


私は思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

(何?何て言った今?)

「イケメンっ?何それ!」

私は面食らって体を前のめりにして加納冴子に聞いた。

「イケメンて言うのは顔のいい美少年の事で…」

加納冴子は律儀にイケメンについて語り出した。私はその言葉を自分の言葉で遮る。

「それは解ってます!今その単語、結構いろいろな所で聞きますから!そうじゃなくて、どうしてそんな…」

今度は加納冴子が話を被せる番だった。

「Ms.アンジェラはこの店の客層を考慮して従業員を全て男子のみに限定しています」

「はぁ?男子のみって…」

やっと話が呑めてきた。信じられない事だが、恐らく先程の〈男子になれ宣言〉はこのやり手フードプランナーの戦略によるものだろう。従業員がオールメンズという訳だから、必然的にその見習いとして入る私も男にならなくてはいけない‥と。


「っでも、無理じゃないですか?私は女だし直ぐにMs.アンジェラにはバレますよ!それにニコさんだって私が父の娘だって事知っていますから絶対無理です!」

必死になって弁解する私。しかし何度も私を撃沈させている当の本人はからっ、とした顔をしている。

「その事ならば大丈夫です。ニコ氏もMs.アンジェラも、貴女が女性と知った上で受け入れると言われたのですから」

彼女は優しい微笑みを投げ掛ける。

でも今の私にとっては悪魔のそれと変わりない。綺麗な顔してえげつない事を言ってのけるものだ。弁護士というのは仕事を完遂する為にはこうも悪魔になれるものなのか…。


「ですから貴女は他の方達に女性だとばれないようにして頂くだけです」

彼女は爽やかな悪魔の微笑みを整った顔に貼りつけて私に確認する。


「それさえ乗り切れば、春日氏の遺志を叶える事が出来るんです。但し女性とばれればその時点で契約は無効ですけど」


淡々と語りながら、加納冴子は私の手を握りしめた。

やはり裏があったか。
経営者というポジションを第三者に易々と受け渡すなんておかしいと思っていたのだ。それなりに経営状況が安泰していて話題性がある店なんていくら亡くなった友人の遺言だろうと簡単には渡したくないだろう。でも、あの店だけどうしても私に譲りたかったという父の理由を聞いた今簡単に諦める気にはなれなかった。

どんな辛い事も持ち前のバイタリティと猪突猛進という座右の銘を引っ提げて乗り越えてきた私。お金が無くて三食卵かけ御飯の日々だってあった。今じゃホームレスに片足つっこんだ状態でなんとか生き抜いている。これ以上に何が起ころうと大抵の事ならやり抜ける自信がある。

絶対に父の遺志は私が継いで見せる!

私は決めた。
この勝負受けてやろうじやないっ!

「わかりました。私男になります!」

その台詞を聞いて加納冴子は満足そうに頷いた。


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