9 「凛としも」つづき
「どうしてもお願いします。ご迷惑をかけることは決してしませんから。」 少しハスキーな智子の声の必死さに根負けした。まだプロになり切れない弱さだった。 そんな失敗も、この電話までは忘れていた。 「間山が亡くなりました・・・・連絡すべきか迷ったのですが・・・・間山は・・何故か・・あなたとの会話を何度か・・・・私に語ったことが・・あったので・・・・」 何をしゃべったと伝えたのか。あの神経質男は、と私は思い出そうとした。 新しく買ってもらったと言う透明ケースの懐中時計に関してなら少し記憶が残っている。 「私が買って来たその日に・・・・あなたに・・見せたところ・・・・あなたに・・・・先がなくなるよ・・・・と言われた・・ことを・・何度か折に触れる感じで・・・・言っていました・・・・」 やはりあの冗談が問題だったのか。あれは死なない人間には許されるはずの冗談だった。 しかし、先ほどの話だと、間山は亡くなったと言う。 何を要求してくるのだろう。私は気にして次の言葉を待った。併せて、携帯番号を教えた拙さを思い知らされた。しかし後の祭りだ。 私は黙っていた。智子は電話をしながら私に恨み言を言いたいのだと察した。が、受話器の奥で智子の息遣いが聞こえて来るだけだった。 私は電話を切ることが出来ないでいた。その内電話は切れた。携帯電話を手提げに仕舞い駅に急いだ。智子からはそれっ切りだった。私はどこかに残る引っかかりを振り払った。
|
|