6 時刻む 命惜しみに 汗滴り
私のお客さんになった今回の患者、間山はデリケートな人間である。一度会っただけだが奥さんの智子も似ている。仲がよさそうだ。私はデリケートな男が好き。だからわざと無神経風に振舞って怒らせたりもする。 私は間山のベッドの横に置いた家族用の折り畳み簡易ベッドに腰を下す。 夜通し横になることはない。本を読む。編み物もする。偶にだが、私がパッチの基本にしている50p程の大きさになるよう組み合わせていくこともある。 一番多いのは手帳に書くことだ。間山は「あっ、黒革の手帳だ」と言った。松本清張が好きなのだ。「そうですよ。間山さんの秘密を書いています。」私は楽しくて仕様がない。 前夜珍しく夜中に間山が水を欲しがった。「飲み過ぎるとトイレが近くなりますよ」と言って湯飲みを渡した。間山は「自分で行けますからご心配無用です」と受け取った。 一週間後の別れ間際、間山が枕元の懐中時計を取り出した。 「時を刻むのを見るのはいいものでしょ。」と間山は言った。透明ふたの時計など見たことはなかった。見せたがる間山の意図も分らない。ぜんまいが目の前で回っていた。 「近頃なぜか欲しくなって女房に買って来て貰った」、と間山は説明した。時間が気になったと言うことなのだろうか。
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