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作品名:夜を守る 作者:あるが  まま

第36回   36  しとど汗 教え子母子の いたわり眼 
36  しとど汗 教え子母子の いたわり眼 

 久し振りに九州大学付属病院での仕事が入った。個人病院と違った気楽さと難しさがある。
今度の患者は、夫の名前と少し似ているが、性格は異なるようだ。初めて顔合わせした時から何となく気になる感じの患者だった。最初会った奥さんは福祉施設の職員をしていると自己紹介した。仕事では誰にも負けないとの自負心を顔に表わしながら熱帯夜の街に戻って行った。
夫を殆ど他人のようにとしか感じていない私として、その夫の存在を、こともあろうに仕事現場で思い出した格好だからおかしかった。それで夫にどうこうする気持が沸いた訳では無論ない。
「それはあなたがどこかで夫君のことを考えているからよ。」と栄子にからかわれそうだ。栄子は離婚して一人息子と母子家庭を営む高校時代の友達である。私はこの栄子の冗談を軽く聞き流す。栄子も元夫のことを問われると、「冗談じゃない、彼とは好きも嫌いもない。無関係の存在よ。」と言い返すのも常だ。夫への感情などなくなってどの位になるか思い出すことも出来ない二人は、その意味でもよく似ていた。法的な夫婦であることが、私と栄子の違いであるだけだ。
春人は、医者の指示に忠実に従う患者である。いいと言われることを一所懸命努めた。何度も切開手術をしてきたらしく、生きる意欲を強固に持ちつつ、一方で時々諦めの顔になる。
初孫が生まれたらしい。親になった娘に名づけを依頼され、喜んであれこれ考えていた。


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