34 生花どけ 招かざる客に 仁王立ち 伊丹十三監督の映画『お葬式』を瞬時に思い浮かべてしまった。このフィクションとは全く違う現実世界の話である。何であれ奇妙な事実に出くわすのは、私たち夜を守る仕事の余得である。しかし時には、余計に仕事を疲れさせる元凶にもなる。 私はその間の日当(謝金)を貰いに来ていた。その日の内に貰うことが鉄則なのだ。亡くなったからと言って、その日遠慮しても何時になったら可能になるか分らない。契約の時の約束事を私はいつも誰に対しても貫いて来た。大体、急なことで持ち合わせがなかったとは言え、別れる時に謝金を渡せなかった相手の責任であって、私は悪くなかろう。むしろ慌しさに満ちた場違いな場に身を置かざるを得なくさせられる私の身にもなって欲しいものだ。 教えられた所番地の玄関を潜った。人のざわめきがきこえていた。古い家柄だろう。自分の家と同じかも知れない。でも家の格好で異なるところもある。玄関を入ると三和土があるのは私の生家と同じだ。だが、この家には見上げた所にあるはずの中二階がない。幼い頃、祖母によく聞かされた話がある。火事の時には、中二階のその三方の部屋の大切なものを階下の三和土部に投げ下ろすのだ。それを可能にするために中二階はカマドから遠い玄関口に面してあるらしい。 中二階はないが、2階の床板つまり下から見える天井は、1mの大きな板を並べていた。
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