20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:夜を守る 作者:あるが  まま

第30回   30  春嵐 フリルにGパン 紅鼻緒
30  春嵐 フリルにGパン 紅鼻緒

福岡から筑後地方の中心地、久留米まで勝子を訪ねるようになって20年近くにもなる。
父親の従姉弟にしか過ぎないのだが、実の伯母よりも確実に会って来た。どちらかと言えば、老いて過去の精彩を欠いても、小うるさかった義母に会いに行く感じだった。
勝子は往年の三井三池炭鉱争議の婦人部の闘士だったらしい。今、面影はない。
最初の頃は私との関係でも勝子に主導権があった。筋ジスの子たちの「ビートルズ」を見ようと誘ったのも勝子だった。しかし鉢植えの“緑”以外に興味を抱かない今の勝子だ。気風のよかった記憶も殆どを失っている。住み慣れた炭住の地、大牟田からも少し離れた地に移った。公団アパートに手間隙かけた緑の蔓に囲まれていた。隣近所の住人に顔を合わせることもない。夫が長年の炭鉱勤務で肺を患い、その保証金で生きてきた。
勝子は、夫を煤塵被害者として認定してもらうため担当医者に会いに行ったことを一度洩らしていた。後ろ暗いことがあったのか、それは分らない。勝子にとっては当然の行為だったようだ。近頃は、そうした過去の要求行動自体に触れることもない。夫は入院したままだが、見舞いに行くこともないらしい。私は問うこともなく全てを呑み込んでいる。
ドアを開けたら、生い茂る蔓の先に男がいた。ベッドの勝子は洗い晒しの寝巻きの裾をだらしなくしていたが、私を見て慌てて身づくろいした。男は汚れ物を部屋の外に出した。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 12051