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作品名:夜を守る 作者:あるが  まま

第28回   28  白魚を 呑み込む努め 無に帰して
28  白魚を 呑み込む努め 無に帰して

患者の名前は創と言う。私が、創を一目見た時、正直残りが短いだろうと思った。
半年前、お腹の膨れ方と顔の色から危惧したゴルフ仲間に検査入院を勧められたらしい。創は「数日仕事を休む」と気楽に出かけた。創は元々健康に留意している方だと自負していた。
ところが病院の診断結果は肝臓がんだった。しかも手術できる余地のないことも分った。
家人が身内の重大さに気づかないことを、家庭内の夫婦関係、親子関係の濃淡の問題に帰す者もいるらしい。でも私はその説を取らない。何人もの人が、愛する人の末期に立ち合っている時に後悔し、何度も自らを責める言葉を聞いてきた。しかし、愛情が薄かったから早期発見を難しくさせた、とすることの間違いを私は実感している。神のみぞ知る領域の話だから仕方ないではないか。毎日でなく久し振りに会う人の対面だからこそ逆に「異常」に気づくこともあり得る。
検査入院するまでは、他人以上に毎日元気に振舞っていた身近な人が、余命半年と言われても信じることなど出来るはずもなかろう。私は依頼人の様子に関らず実務的に仕事を進める。
創には一応抗がん剤が打たれた。妻と子どもたちは呼ばれて主治医の説明を受けたらしい。がん細胞があちこちに無数と言っていい形で広がっているのを見せられ、声も失くしたと言う。
家族はがんの事実を伝えることが創の願いだと判断していた。苦渋の末に告げた。


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