27 「喉切開」つづき
アメリカの有名な科学者ホーキンスは、筋肉が萎縮していく難病で身体が小さくなっていく。それでも知性は衰えることがないほどに、世界に大きな発見をもたらしている。それをテレビで観た。だから、筋肉の萎縮する人が生活年齢として赤子同然もあり得るとは私も思ってもいなかった。しかし宏二はそうなのだ。母親は2歳くらいと教えてくれた。 ビートルズを敬う筋ジスグループサウンズのボーカルの子はその後、程なく亡くなったらしい。20歳以上を生きるのは難しいと言う現実も聞いた。この点でも宏二は違った。今28歳である。 ボーカルの子らの筋ジストロフィーが「ドゥシャンヌ型」と呼ばれているに対し、1歳半から2歳くらいの知的程度らしい筋ジストロフィーは、「福山型」と呼ばれている。筋ジス患者の典型であるらしい。生き続けるため、誤嚥を避け食事を直接胃に送り、食道を通さないのだと聞かされた。 宏二は、さだまさしの歌が好きなようだ。いつも聞いている。それと広告の紙も手放さない。 雪乃とも異なるが、同じくあっけらかんの感じで生きている勝子に代わって、父親が説明した。 会った印象と違って、丁寧な物言いだった。公務の時間でも時々年休を取っては、息子のために学校や病院や、励ます会、友の会の催しにも参加してきたと言う。しかし、政治的運動とは一線を画しているらしい。同じネットワークで結ばれていても、色々あるのだろう。しかも、運動体が一つにまとまるのも難しいらしい。もったいない気がするが、政治がそうさせているのだろう。 私もまた関りたくない。いずれであれ、雇用者の信条と一線を画すのがコツなのだ。僅か1日、長くて1週間が私の仕事だ。当事者の問題に一々反応する暇はない。でも、政治問題に疎く、仕事開始前は知りもしなかった諸々課題の重要性位は、指摘されなくても否応なしに分ってくる。
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