23 「ナンテンの」つづき
洋司もご他聞に漏れず、農村出身だった。父親を早く亡くし、歳の離れた兄が面倒を見てきたらしい。弟の初任給を受け取った農家の跡取りのこの長兄はその額に驚いた。米の収穫で得る金額が弟の一ヶ月分の給料だったからだ。洋司は隣町の教育長を勤めた。しかし任期を終え二期目を所望されても肯んじなかった。燃焼し尽くしているかららしいが、名誉欲にも興味ないらしい。中村は恩師との交わりを有難かったもののように、見知らぬ私に語って聞かせた。 寝る前の身体拭きをした。肌の白さが部屋の蛍光灯に映えた。きれいだ。年寄りの肌は水気を失うのは仕方がない。肌の黒さが些か醜くなるのはこれまた仕方ないことだ。私等の仕事では醜さを気にしないことが当然である。ところが洋司は白さ故に今でもきれいなのだ。仕事相手を差別する気持は毛頭ない。しかしこの洋司の肌の綺麗さを嬉しがる私の感情もまたどうしようもない。 老人ホームに預けられていた洋司は、酷いじょくそうを患った。それで急遽入院措置が諮られた。しかもその間に皮膚病にも感染していた。病院側は、じょくそう治療で入院させたのに、伝染性の皮膚病の治療まで押し付けられ、この患者を嫌った。かゆがるからつなぎの患者服を着せてかきむしらないようにさせた。そして夜の特別看護の必要性も暗黙のうちに求めていたのだ。
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