21 {重ね雪}つづき
「要次郎は、人はいいけど兄が早逝してか、甘やかされっ子だったからねえ。私は要次郎の性格を知っているから、本棚の裏に見つけて没収したけど。」事情を聞いた操は寂しそうに応えた。 「そんなの私は出来ません。目の前のを預からして貰う、とは言えるだろうけど。」 「それでいいとよ。三日間頑張ってね。お願いします。後はまた私たちで面倒見れるから。」 私はいつも誰の場合もだが、つつがなく仕事を終えることを願って頑張る。 操が要次郎と呼び捨てする仲のよさを羨ましく微笑ましく感じての仕事だった。 それも終った。いつも甘えかかる要次郎の人の好さだけだと、仕事の大変さを少なくしてくれた。恵まれていた。要次郎はその間お菓子を私の目の前に出すこともなかった。 ところが一ヶ月もしない内に、操が電話してきた。 こっそり食べていた大福を喉につかえさせ、周りが気づいた時はどうすることも出来なかったらしい。私は要次郎の「饅頭怖い」の話し振りを思い出した。 私は、患者だった人の葬式になどは出ないことにしている。だが、操からの要請で出かけた。 要次郎の妻も病院から駆けつけた。要次郎の一人娘も赤子を病院に頼み別れの場に臨んでいた。喪主らはこの日の来ることを覚悟していたろう。それでも現実となると皆青白く、痛々しい。 仕事開始日も雪だった。葬儀の間も雪は降り続いた。清らな門出への立会いになった。
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