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作品名:夜を守る 作者:あるが  まま

第20回   20 <重ね雪 「饅頭怖い」で 死に急ぐ>
20  <重ね雪 「饅頭怖い」で 死に急ぐ>

窓の外の雪が一層酷くなっていた。
「要次郎はどうを?」操は私を思いやるように尋ねた。
操は従兄弟要次郎の妻が乳がんの手術で入院している間、この従兄弟の面倒を見ていた。妻は、年末の退院予定が延びてしまった。一人娘の百合子は自分の出産と重なって父要次郎の世話どころではない。それで元旦も操が出向いていた。しかし仕事始めの数日は忙しく世話しに行き難い。家政婦を雇う外なかったが、要次郎には誰でもいいと言う訳にもいかない。
それで操は私に依頼するのだと言う。要次郎は糖尿病だった。週に二度は点滴を受けに病院に連れて行かなければならない。元気な時も別に肥えてなどはなかったらしい。それにしても、これまで出会った病人に比してその痩せ方が酷いと直感していた。
要次郎は好きだった酒は止めた。がちょっとだけと言い訳しながらお菓子はこっそり食べ続けているらしい。病院通いの合間に買いだめていたのを夜中食べるのが何よりもの幸せだと、打ち合わせの最中に私に言ってのけた。何日か面倒を見てもらう新人家政婦を試しているのだ。困ったことである。せめて自分の仕事中は止めて欲しい。でなかったら仕事には来ない、と私は雇い主の要次郎に釘を挿していた。要次郎は、弱々しく笑いながら「饅頭怖い」の落語の話をした。おまけにいつ死んでも悔いはないとも仄めかした。その上で「約束する」と応じたのだ。


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