カール髪 フリルの上下に チューリップ 朝の光がまぶしい。私は病院の玄関を出て、そのまぶしさに思わず目を閉じた。 目を開けると緑が広がった。車を一方通行にさせる役割も兼ねた坪が作られ、2本の大きなパパイヤの木が植わっている。周りには季節ごとの花が咲く。今はチューリップだ。 バス停は病院の敷地内にある。昔結核療養所だった頃の名残だから歴史は古い。私はそこからJR福間駅まで乗る。20分の距離だ。朝は大体似たようなもので、乗客は少ない。 私はよく窓の外を眺める。私は言葉に興味もある。手帳に見たまま思うまま書くことも多い。バスの中で毎回出会う30代女性がいる。今日は私とこの女性以外の乗客はいなかった。今日の私は珍しい気分だが、斜め後に坐っているこの女性に話かけた。 「勤め前に洗濯物と家(うち)の人の好きな牛乳を届けに来ているんですよ。」 「お連れ合いさんは喜んであるでしょうね。」 「いいえ、うむ、とか一言言うだけなんです。毎回。わがままなんです。あの人は。」 「お仲がよろしくて、羨ましいです。」そこで私達の短い会話は終った。 川上と名乗った女は私の言葉に満更でもなさそうで微かに笑っていた。今の私のお客さん夫婦も多分私と同じようだが、夫が入院することになっても、毎日モノを届けたりすることにはならない。そんな夫婦関係ではない。そうでなくなっている。 私達は終点の新装なった福間駅前でバスを降り、軽く頭を下げ合って別々になった。
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