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作品名:夜を守る 作者:あるが  まま

第19回   19 「めでたしや」つづき
19 「めでたしや」つづき

JR博多駅から古賀駅までは30分とかからない。駅北側にも改札口が出来た。ニビシ醤油の一画が提供されての快挙らしい。ニビシを若年退職した美川は自慢げに私に伝えた。
以前だと大根川近くまで行って踏切を渡り、また戻る格好でなければ今の東側駅舎下には着かなかった。時間にして20分は掛かる。それがすぐに降り立つことが出来るのだ。
私はその便利さに感謝しながら今回の仕事をすることになる。しかし今日は元からあった駅南改札を抜けて左折し線路に沿う小道を博多方面に向って進んだ。粉雪が舞った。
私は寒さに強い。と言うより雪が降る中を進むのが好きだ。
操の印鑑屋の小さな看板が見えた。印鑑証明用の印鑑を、わざわざ1時間以上離れた古賀市で注文したのは、私にない操のさっぱりした物言いに惹かれたからだった。操も私の仕事振りを気に入っていた。「思い思われの関係よね」と女同士の不思議な友情について操は説明した。正月早々の仕事の依頼者は操の紹介だと述べていた。
年末に印鑑を注文していて、今日が出来上がりの日だった。私より少し年かさの女性が一人椅子に腰掛け彫っていた。操だ。しかし今日の操は気さくな表情にない。まだ出来上がっていないのかも知れない。ならば待てばいい。今日が仕事開始だが、夕方までない。
扉を開けて中に入った。「操ちゃん」私は呼び掛けた。操が慌ててこちらを向いた。
「なんだ弓ちゃんか。」「弓ちゃんで悪かったですね。時間があるからゆっくり仕事して。」
「ううん。あなたのはもう出来ているのよ。要次郎の分をあなたに届けて貰いたくて急いでいたの。」操は言葉を続けた。「正月早々に要次郎の世話お願いしてごめんね。」


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