16 おせち料理 「良妻賢母」で 色とりどり
家でテレビの料理番組を見ていた。それは仕事を始めた今も変わりない。 今日は仕事もない。間もなく訪れる正月の料理をどうするかのヒントを得たいと考える時間だ。昔と違いその年の新たな工夫料理は1品のみ。それでも一通り作るのは昔と同じ。 珍しく家にゆっくりしている夫の秋人が声をかけてきた。秋人の着物姿はいつ見ても似合っている。私も着物は好きだ。が今は、着る気持はない。 「お前、よく飽きないねえ。感心。」 「私は料理しか取り柄がないから。」 「俺は人と違って、料亭とかで食べたいとか思わない。家のが一番。口に合っている。」 私は秋人の言葉に一層励まされていた。料理だけは他人に負けたくないと思ってきた。 台所に立つと自分がしゃんとしていることが分る。台所は自分の城だ。誰にも立ち入らせる気はない。昔も今も同じだ。専業主婦の最大の仕事は料理だから当然だった。 「浮気するのは、毎日の料理が不味いから」。秋人の母親が何かの折に言った言葉を私も信じていた。この母親も料理は上手い。美味しいものを食べたくなるのは人として当然でないか。特に仕事がハードな場合、美味しい食事を求めない方が不自然でもあるだろう。
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