15 「寒空下」つづき
昼間経験した大相撲見学はやはり退屈だった。美代も疲れている。度重なる仕切りがいいと美代の担任は言う。刺青でもしていれば別。大男の裸姿など何人か見れば十分過ぎた。 「養護学校社会見学」の帰りは学校のバスはなく、各人自由だった。私にはこの上なく面倒だ。仕方なく雪乃に言われた通りタクシーを使った。 信用され鍵を渡されてのこととは言え、他人の玄関を鍵を使って開けるのは好きではない。それでも美代と二人だけであれ雪乃があてがった部屋に一旦入ると落ち着いて来る。 翌日雪乃が戻って来た。仕事分のお金を貰う段に雪乃はタクシー代の半額分を私に負担させようと計算した。雪乃の言い分はこうだ。「あなたも乗ったのだから半分払ってもいいはずよ。障害者割引だからあなた一人で乗る時よりずっと少なくて済んでいることだし。」 私は呆れた。私が相撲好きだったとしても仕事で必要な金銭は患者負担になっている。ましてや私は大相撲なんか嫌いだ。おまけに私は日常生活ででもタクシーを使わない。お金は払わないと応えた。雪乃はそれでも不満そうだったが、定められた通りの賃金を渡した。ボランティアで介護してくれた人のタクシー代を患者側が払うのは当然。ましてや仕事を依頼しておきながらタクシー代を請求する感覚に私は驚く。世間は色々、勉強になる。 仕事で本場所を見て、無関係の成績までが目に飛び込む。横綱白鵬が双葉山の69連勝を破るかもと沸いていた。が結果的に阻止された。雪乃お薦めの大関魁皇は「優勝か」との声さえ生んだ。「美代が見に行ってあげたからよ。」と雪乃は真顔で報告して来た。
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