14 <寒空下 湯気立つ土俵 裸の群れ>
私の家政婦仕事は「夜の仕事」だと、聞かれる度に説明してきた。病院に患者を見舞う身内がいなくなった夜から朝まで患者の面倒を見るのが仕事だからだ。お茶を飲みたいと言われれば夜中の何時であってもすぐ手渡した。風呂には入れない。定期的に用意する病院に任せる。だが、寝る前の体拭きは言われなくてもする。私の重要な仕事だからだ。 身体拭きで思い出す。いろいろな背中が、それぞれに人生を語っていると言うことだ。 刺青の体を拭くときは興味津々。映画でしか観てこなかった図柄が目の前にある。惜しむらくは私が担当した患者は若くなかった。皮膚がたるんでいた。タオルで強くこすると捻れて般若の顔が歪むのだ。はじめ怖かったが、二度目からはそれも面白かった。 しかしそんな感想は一言も言わない。患者が聞いてきても笑うだけで何も言わない。家政婦協会に行った時、講習で言い聞かされた事でもある。だから私は自分にも言い聞かせる。うっかり自分の好奇心をこんな場で発揮したら大変。仕事も一気に失いかねない。 滅多にあるわけではないが、病院でなく自宅訪問の場合でも風呂には入れない。体を拭くだけだ。だから、美代の場合も同じだ。美代はほんとに細い。折れそうだ。
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