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作品名:夜を守る 作者:あるが  まま

第12回   12 どぎまぎの 見世物小屋や 放生会
12  どぎまぎの 見世物小屋や 放生会

私は箱崎宮の近くで育った。秋の放生会になると決って境内に見世物小屋も出た。
小屋の天辺近くに括りつけられたスピーカーが発する粘っこい声の「親の因果が子に報い」を毎年聞き覚えて大きくなった気がする。「花ちゃん顔を見せて」と呼び込みの男がマイク越しに花ちゃんを何度も誘う。まだ小屋の外でうろうろしている者たちに、花ちゃんは御簾を上げて顔を見せた。島田に結った「花ちゃん」が笑顔を振りまく。小屋の正面には、実物よりもっと綺麗な女性の、着物姿で下半身は鱗に覆われた大蛇の尻尾が描かれている。「蛇女」だと聞かされた。
一度母親にせがんで入場券を買って貰った。怖いもの見たさからだ。しかし「さあ、花ちゃんが全てを見せるよ」の掛け声を何度も聞いた。いい加減聞き飽きた頃、裾をまくった花ちゃんの鱗のほんの一部を見ただけだった。どう考えても蛇はいない。
私はこのおどろおどろしい「親の因果が子に報い」の意味を調べた。因果応報で、殺生を生業とした一族に異常児が生れると言う説らしかった。子どもの私ですら当時でも半分は気づいていた職業差別だ。半分は可哀相な人たちはいるものだろうとも思っていた。隔絶された地域によってはトラホームの蔓延や近親結婚の負の部分が存在していたことも、何かの折学んだ。


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