20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:夜を守る 作者:あるが  まま

第1回   1 プロローグ つづき
でも終戦。全部失った。「コロ島」とか言う港から大勢の日本人と一緒に博多港行きの船で引き揚げて来た。そんなことを昔、何かの拍子に聞いたことがある。それ以上親は何も語らない。作文の宿題がらみで、大連の生活はどうだったのか、と聞いたこともあった。けど、親の答えはなかった。だから私は適当に書いた。私も興味がある訳ではないからそれでおしまい。知りたくもなかったし、今も特に知りたいこともない。中国、と言うより、他所の国のことなんかには何の関心も持たないまま、すくすくと育って大人になってしまっている。
ファッションを必要以上に気にする頭の空っぽな女は別として、私の周りは狭い世界で生きる女だらけと言っていい。偉そうに言っている男でも大して変るはずもなかろう。今生きていることに汲々としているのだから。よほどの男を除いて、他のことに目など行くはずもない。
そんなこんな、時折あれこれ正直に考えてみる私だったが、今、「私」は無邪気に自然に振舞うことが出来なくなっている。いつ頃からだったか、随分久しくなっている気もする。
『夜を守る』の仕事をすることになってしまったのだが、その「家政婦」の一人としてひとりごちたいのだ。この仕事をするようになり、私は仮面を被ることを覚えた。これが「私」には快感。夜の仕事は私に似合っていると、今、自分で認めている。それにしても「私」の狭い体験でも、人はさまざま、面白い。
少し前まで私のことを、有閑マダムでボランティア活動している女と思っていた人もいた。とんでもないこと。私のそれまでのボランティア気分では、この仕事は勤まらない。以前の私を含め「有閑マダム」のボランティアの人には申し訳ないけど、仕事は甘えを許されない。厳しい世界。
それでいて私の好奇心を揺さ振り続ける楽しい世界みたいでもあるから、笑っちゃう。


次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 12049