6、 新雪の 後半
開店早々から来る年寄り達と出会うのは嫌いでない。質問があればその都度応じていた。 「兄ちゃん、兄ちゃんは学生か」痩せて髪の薄い年寄りが声をかけてきた。 「ハイ」。 「北大か」。「ハイ」。 それで終わるのが、いつものパターンだ。後は、それぞれがごしごし無言で髪や身体を洗い、ゆったり浸かる。気持がいい。大きな湯船が自分ひとりの世界になる。 質問が終らない時もある。今がそうだ。痩せ男は小野だと名乗り、問いを重ねて来た。 「何を勉強しているんね」。 「はい、中国のこととか」。私は少し驚いて応えた。 「中国な。面白いか」。 「はい。文化革命がなければ中国が好きなままだったでしょうが、今ちょっと嫌いです」。 少し間を置いて、「俺は中国から戻って来た」と小野は遠くに思いを馳せて呟いた。 「えっ、そうですか。」私は同じ昼の風呂屋にいる小野の自分と異なる人生を想像した。。 小野は私の顔をじっと見た。「生活保護を知ってるか」とまた全然違うことを聞いて来た。 私は小野が全国生活と健康を守る会、いわゆる全生連の会員だと分った。 私は全生連との関わりがある。近くで小さな八百屋を営む伊藤がこの辺の責任者だ。 「生活保護については少し知っています。」 小野の話はまた飛んだ。「ワシなあ、朝鮮戦争に従軍していたんだ」。 私は驚いて小野を見た。朝鮮戦争に日本人が参加したことを想像できなかった。
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