5、 新雪の 足跡一つ 往き還り
一面の雪は冬の凄まじさをも美しく見せる。吹雪の翌日は特に全てがシンプルで清らだ。 九州で生まれ育ち、大学の間だけ北海道に渡って来た私には、大量の雪は宝物である。 私は朝夕は桑園寮で食事し昼は大学生協で摂っている。久美子の看護学校寮に電話するのも生協だ。寮の玄関前まで出て来るよう伝えた。了解を得、久美子の女子寮に行った。 仕方なしの表情で久美子が出て来た。国家試験目前、寸暇を惜しみ日頃出来てない勉強をする。だが、私の強引さに負けた格好だ。雪に映え久美子の顔は一層白く輝いて見えた。 「頑張って。皆と栄養つけて下さい」と記したメモ紙と一緒に私は、バターを手渡した。 何とも策のない贈り方である。しかしそうする以外考えは浮かばなかった。 彼女になどなってくれない人であることを私は頭で理解していた。しかし、諦めの悪さで行動に移してしまうのだった。私は、男としての男らしさに欠けている自分をこうした折にいつも感じて生きている気がした。 「忙しいからこれで。でも有難う。皆で使わせて貰う」 久美子は私に気を遣いながらも素早く建物の中に戻って行った。 渡せた満足感が僅かにはある。しかし一方での不甲斐ない自分をまた思い知らされた。 私は雪に埋まる長靴を引き上げるようにして自分の桑園寮に帰った。 珍しく時間があった。髪を切ることにした。洗面具と下着の替えをバッグに入れた。風呂行きの格好で、まずは構内のクラーク会館内に生協が経営している床屋に行った。 私は髪を余り短くするのは嫌いだ。洗髪も整髪も不要。床屋にそれ以外の要望はない。出来るだけ時間を取らず、少しでも安く髪を切って貰えればいい。 散髪後、私はその足で近くの風呂屋に行った。昼の風呂屋に人は少ない。(続く)
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