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作品名:憧れ河 作者:あるが  まま

第4回   4、 「向日葵の」 後半
4、 「向日葵の」 後半

私が四年生の夏、福岡の親元への帰省を兼ね、東京では日中貿易を営む李さんを訪ね、就職の相談をした。文化革命が起きたと報じられて半年も経っていなかった。それでも李社長は、「文化革命を支持するか」「毛沢東は好きか」と問うた。私は素直に支持できないと応えた。それでは日中貿易に当分は従事出来ないだろうことを知らされた。
その帰り、大阪の極東書店の店番をしていた先輩の上野八郎に会った。極東書店は中国関係の書籍を扱う有力会社だ。卒論のための資料を買うために訪れていた東京神田の書店大安の同業でもある。
「八ちゃん、どう考えたらいいですか」と問うた。
この偉大な先輩は、中国を愛する我々には生き辛い世の中になって来ていることを私に教えた。これで、私が切望していた日中貿易の会社での仕事を諦めざるを得ない状況であることを完全に悟った。
私は、出版社か書籍卸業に行くか、教員になるかを考えた。高校浪人中から目指していた日中貿易や中国での仕事探しを断念することになった。この断念は実に悔しいことだった。だが進むべき次があるという意味では大したことはない。私はまだ学生であった。
上野八郎の今後はどうなるのだろう。
憧れの聴濤兄弟は更に困難な事態を迎えているはずだ。私は見知るまでには到ってない聴濤兄弟や家族のことを思いやった。聴濤弘の兄は、中国の紅衛兵側で文革を進めさせられているとの情報も流れてきた。兄弟が引き裂かれているのだ。
世間的には些細なことだが、この時、私の子育ての夢も打ち砕かれた。
つい最近まで希望を託していた中国だった。私の想像をはるかに超えているはずの中国人の苦痛を悲しんだ。その分この文化革命をも美化する内外の者達への怒りが増した。


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