20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:憧れ河 作者:あるが  まま

第38回   38 「足延ばす」つづき
38 「足延ばす」つづき

この町は夕張炭鉱の地続きにある。そこの栗山炭鉱もまた中国人強制連行の悪名の高さでも知られている。
夏彦はここに住むようになって、そうした町の歴史にも興味を抱き、郷土史家との交わりも積極的に進めた。役所勤めの最中は忙し過ぎて地域と関わることが難しかっただけに、一所懸命である。律儀な振る舞いは地域の人からも親しまれた。
夏彦も久美子も学生時代からの生き方を貫いていて、私には余計に気持がよかった。
庭の木々が鮮やかな緑を示し始めていた。私は久美子を妻に出来た夏彦が羨ましかった。また夏彦を夫に迎えた久美子が一層まぶしく見えた。
翌日、夏彦と久美子は、私たちを乗せて札幌のホテルまで送った。
ホテルを選ぶ時、私は頭数でなく一部屋幾らのホテルを求めていた。二日泊るのは洗濯物を確実に乾かす時間を確保するためである。この考えは何時頃からか覚えていないが、いつも考えていることなど、問わず語りに伝えた。
札幌にはもう一組大事な夫婦がいる。私の故郷津屋崎の従兄妹公代と、同じく福岡の新宮町出身の森夫婦である。結婚してすぐ北海道に仕事場を求めて苦労した二人を、私はいつも尊敬の眼差しで見る。娘二人に恵まれた。彼女らの故郷は福岡でなく札幌である。
この家に泊めてもらうのは何回目になるか忘れてしまった。卒業後も研究会などで札幌に来る時は一日いつもお世話になっていた。団地に至るポプラの並木が綺麗な色をつけていた。目をぎらぎらさせた一匹狼的な仕事振りの森だった。が、いつの間にか少しずつ仕事も軌道に乗せ、社会的にも経営者としての品を備えていた。こうした功なり遂げる過程の一端を見て来ただけに、森夫婦への敬意の気持は、私に大きい。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 15911