37 足延ばす 緑みどりに 憧れて
おまけは次のおまけを招く。私が学生時代に一方的に憧れていた女性、高嶺久美子に会えたら望外の喜びだと夢想していた。還暦の札幌行きは、それさえも実現させたのである。 久美子の連れ合いの夏彦は優しい人だ。打ち合わせ等も几帳面だし、実務も正確、落ち度がない。北海道庁に勤め退職後は都会を少し離れた郊外生活の道を選んだ。 孫と孫同然の姪達を連れて行きたいとの私の申し出を快く受け止めた。自宅の庭に、その日の子どもたちのためのバーベキュー設備を日曜大工で作った。 元応援団長氏平が札幌市の最東部まで送り、高嶺夏彦はそこで私達を迎えた。氏平は「よろしくお願いします」と言った。高嶺にバトンタッチされた私たちは幸運の旅を続けることになった。 私はどきどきしていた。表向きは平気な顔をしていたと思う。しかし落ち着かなかった。車が高嶺家に着いた。憧れの人がそこにいた。歳を取っているはずだが、私には若々しかった。一瞬40年前が蘇った。私は迎えて貰えたことに感謝しつつ、孫らと一緒にどやどやっと家の中に入った。 高嶺家にはラブラドールレッドリバー犬がいる。盲人援助の盲導犬にするための訓練中であった。黒い大きな犬に子どもたちは最初恐れをなし尻込みしていた。しかし安全だと分ると今度は厚かましくも上に乗りたがった。 久美子は重い病と闘っていた。だが人前ではおくびにも出さない。だから私は知らされるまで全く気づかなかった。気のしっかりした様子は昔と変わらないのだろう。だが、もしかしたらもっと強くなっているようにも私には見えた。
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