30「冬の雲」つづき
この件では、タクシーの領収書を貰っていなかったことが失点だった。しかし、駅前にいるタクシーは限定されていた。警察もそのことを承知した。それでも何も解決できなかった。タクシー会社も運転手との連絡がつかないとか応えたままらしかった。 しかも、パスポートらを戻してきた封書などを警察に持参したのだが、警察官は手に取ることもなかった。確かめることもしないのだ。 素人考えだが、指紋を取るなりのことをして、犯人捜査に向かわないのかと思う。しかし、これは既に「遺失」だとして処理済みだから必要ない。これ以上何かをすることはない、とにべもない。言葉の壁があって、私は改めての捜査を依頼することは出来ず、すごすご引き下がるしかなかった。 中国に来て警察官の姿をあちこちで見る。制服の胸に刺繍した個人番号が目立って見える。番号付け制服は銀行員も同じだが、詰め所にいる警官は何しろ数が多い。それも若くて屈強で賢そうだ。殆どがエリート意識を抱いているように思える。 しかし、上から指示されたこと以外は何もしないようにも映る。日本人だからだろうか。年寄りだからだろうか。賄賂を渡さないからとは考えたくない。 日本と中国の文化の違いを肌で感じる場面でもある。 もっとも半世紀前の日本はどうだったろう。 子どもが泣いたりしていると、「いつまでも泣いていたら、人さらいに連れて行かれるよ」の言い方があった。それと同じく「警察に連れて行かれるよ」と言うのもあった。私の親はそうした育て方を極端に嫌っていた。が、多くは子どもの頃から、警察は怖いとのイメージを植え付けられていた。 学生時分、デモ中に排除された時に触れた機動隊員の大きな体を思い出す。およそ私にとっての警察官は一部例外を除き「公僕」でありはしない。私が接した今の中国の警官もそれと似ていそうだ。
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