29 冬の雲 つかみ千切らん 居丈高 私は上海での仕事を求めて何度か上海を訪れた。面接や模擬授業の試験も受けた。 今の私にとっての上海はそうした就職活動に行く場である。そこで大切な物を失くした。タクシーに置き忘れたのだ。すぐ会社にも連絡し警察にも届けた。上海での仕事が決まれば失ったことでも思い出話になろうが、決まらなければ「泣き面に蜂」との気持であった。 「パスポートを失くす人の気が知れん」等と思っていた私が大切なものを失くしたのだ。 自分が情けなく嫌になり、これまでの半世紀で失ったものの幾つかも思い出してしまった。またしても無自覚な単純な置忘れだった。今回の、情報満載の手帳、携帯電話などを含む失くした事実の痛手は、考えれば考えるほど、立ち上がれないくらいだった。 周りで私の不手際は呆れられた。当然である。でも前向きに生きるしかない。 励ましの言葉、諸々のの気配り等も戴いた。これらに感謝しつつ、気分一新、一からやり直すことにした。 ところが、10日程してパスポートと銀行通帳だけは戻って来た。「犯人」が手帳の中の住所を見ての郵送と思ったが違った。よく見ると私の住所ではないのだ。「江蘇畜牧獣医職業技術学院」を何らかの方法で調べ、その学校の住所宛にして投函していた。 面倒なことをしてくれたものだと感心する。私を少し気の毒に思ってなのだろう。「犯人」を憎みつつも、少し有難い人だとも思う。
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