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作品名:憧れ河 作者:あるが  まま

第19回   19   60年 鱗雲はるか 死に生きて
19   60年 鱗雲はるか 死に生きて

「中国建国60周年」は同時に、「松川謀略事件60周年」でもある。性格は全く異なるのだが、私は同時に記憶の底にあるこの二つの出来事を考える。私には切り離せない。
1949年当時、中国の建国を嫌う権力者達は、新中国をも支持する労働者に直接の弾圧を強行した。松川での列車転覆事件もその一つ。非合法だった共産党が一時合法化され、労働運動も一気に進んだ。その過程で様々な謀略事件が引き起こされた。
松川事件は発生から14年、私が大学に入学した1963年に、一、二審で死刑にまでさせられていた人が無罪を勝ち取った。「日中国交回復運動」と重なるところを持ちながら、幅広い運動を展開した。そして、「犯人」たちが犯行の謀議を謀ったとされる日時の決定的アリバイを示す「諏訪メモ」の存在を国家権力も隠し通せなくさせた。無罪がやっと確定したのだ。
私が少し惹かれていた北大生協従業員増田に誘われ「無罪報告集会」に参加し全容の概略を知るに至った。
集会を通し、またその日貰った資料を読む中で、国家権力は無辜の人間に対しても、自分らの得になることであれば平気で人を殺すものだと言うことをハッキリ知らされた。
増田は私を諭すように言ったものだ。
「大学の中の勉強だけでなく世の中のことも勉強して欲しい。大学に行けない私たちの分も。」
私は「うん」とうなづいた。故郷福岡の小学校の同級生の内、大学にまで進めたのは1割5分でしかない。増田の注文の向うに85%もの同級生達の声を聞いていた。


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