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作品名:憧れ河 作者:あるが  まま

第11回   11 <あやしやな 夏の天空 虹と霓>
11 <あやしやな 夏の天空 虹と霓>

私は日本を出る前に二重の虹を見ていた。虹と霓である。学生時分に歌った寮歌の中の「意気虹霓に似たるかな」を思い出していた。吉と凶、希望と不幸を予感させる説もある。
江蘇牧医学院の新学期の授業開始日が今年は少し遅くなり時間が出来た。その間に、私は三箇所を巡った。安徽省黄山、江蘇省張家港、河北省張家口である。それぞれに大切な人に会い、私の愛する日田市月隈木履の下駄を土産として渡すためでもあった。
私は日本文化を表現する一つとしての履物「下駄」の紹介、再評価、復活の実現を意識しながら日本でもだが、中国でも生きている。だから土産も願いを託して下駄を渡す。
ところが今回のこれらの旅の最後で、希望が断ち切られることを味わった。
その悲しい気持を伝えるべきか迷った。が、礼儀でもあるだろう。当事者の妙可にメールを送り、私の別れの挨拶とした。

「四泊五日であなたに会いに行った旅は、結論的に言えば、不幸な話になった。
私の目的は、あなたのご両親に会い、あなたが生きてきた炭鉱街を見ることだった。坑内に入ることが出来ないことは既に日本にいる時に了解していた。しかし、あなたの修士論文テーマの主たる場所になる炭鉱街を味わいたいと伝えてきたはずだ。
「鬼の期間」が中国の伝統で旅を嫌うことがあると分っていたら、あなたの家には寄らず、私一人で行っていた。炭鉱街に行けないと伝えられたのは、万里の長城を見、夕食の後、部屋に戻ってからだった。それでも私は最後の日に行けることを期待していた。しかし、それもまた断られた。断る積りなら何故こちら泰州を出る前に言えなかったのか。
あなたは、これまで私の小説を翻訳し中国語日記を添削した。私の言動、気持を誰よりも知っている。私は迷信を信じない。私はあなたの修士論文の手助けも少しして来た。今後一層そうしたいと願っていた。炭鉱街を見ることは不可欠だと思っていた。
私があなたに関わることを拒否するのは何故なのか。


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