1、 とりどりの 土と太陽に 濃紫陽花 ガタッ。新聞配達の音を聞いた。車の走り去る音がその後に続いた。 私は耳が遠くなっている。だが、新聞受けの音は聞こえる。二階のベッドのすぐ下に郵便受けがあることにもよる。時計を見るとまだ4時半だ。今朝の配達は他の日に比し少し早い。早め早めにする寅彦の仕事だろう。 当番制になっていても決められた曜日曜日の早朝の新聞配達は大変だろう。そんな立場になっても私には出来ない、と初めから決めている。万一の当番が回って来る可能性を端から避けている。だから配布されて来た新聞を読む時、いつも寅彦らを尊敬し感謝する。 バイト仕事のない日、私は昼近くまでベッドから降りることがない。なのに、今日は違った。聴濤の本を早く目にしたかったからだ。 そそくさと起き出した。私はベッドではいつも裸である。夏も冬も同じ。何も着ない。着ていると何かまとわり付かれている感じで嫌なのだ。ベッドを降りる時パンツだけを穿いた。階段を下り勝手口の錠を外し、上半身裸のまま外に出た。 近頃は腹が出てきて少し気にし出している。通る人は誰もいないのだが150pの体を更に小さくしてしまった。夏だと言うに朝の風は少し寒かった。目の前の前田川に目がいった。小川の向こう岸にへばりついて咲く盛りを過ぎた紫陽花が見えた。 新聞受に、『しんぶん赤旗』と一緒に1冊の本が入っている。寅彦は約束通り手渡しに来たのだ。この『カールマルクスの弁明 社会主義の新しい可能性のために』は聴濤弘が久し振りに出した本である。(続く)
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