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作品名:春節前後を行く《旅は遥かなる記憶を蘇らせる》。 作者:あるが  まま

第3回   3  シルクロード烏蘇の農村 (春節7日前)
3  シルクロード烏蘇の農村 (春節7日前)
 
 彼女と出会えたからこそ、シルクロードの天山北路を意識して進み、転じて天山山脈を越えることさえも考えることになった。
 二人旅は、二人旅でしか出来ないいいことがある。また一人旅では一人旅ならではの嬉しい出来事が訪れるのも事実。
 朝早い時間は、新疆時間では大方が眠りの中だ。眠れないままに朝を迎えた。
 宿の朝食はそれなりにありがたいものだった。
 宿を出て、nen子溝バスセンターまで歩く。途中で手押し車の車がまたしても外れてしまった。息子が中国在住の折使ってい愛着ある手押し車とも別れの時が来たのだろう。
そしてまた、バスセンターでホテルに地図を忘れていることに気づいた。どう仕様もない年寄りである。
 呉雲燕が私のために天山山脈越えとタクラマカン砂漠縦断の行き方を駅の人に尋ねている。世話焼き風の服務員は私をも呼び寄せ説明する。希望の天山山脈越えは難しく、雲燕の故郷烏蘇には行くだけでまたウルムチに戻ってトルファン近くから山脈を越え、砂漠を縦断するしかないと言う。計画をまた変更した。
 烏蘇までの3時間余、雪に覆われた田んぼや畑を左右に見、ウルムチともさして変わらぬイメージの街に着いた。ここが烏蘇。天山北路沿いだ。そこから彼女の村を目指す。タクシーで20元の距離。
 北海道の一本道以上に続く長い道を抜けて一つの農村に着いた。西大溝鎮、蘇里更村と記してある。彼女の家は道の側にあった。両親に温かく迎えられた。

 家のたたずまいは、自分が訪問した黒龍江省の農村、ハルビン木蘭市の長村の家と同じだが、少し広い。敷地に母屋と納屋が綺麗に整備されている。
 ここで壊れたはずの私の手押し車が再生したのだ。
 雲燕の父は彼女も言うように最後まで徹底して仕事をする人だ。だから修理と言っても半端でない。少しの曖昧さをも無視せず、何度もよりよい物を目指す。モノ作りの達人といってよい。 その父親、呉守貴は、時に珍しがる私に、のこぎりの目立てを実演してみせてもくれる。そして小さな道具一つでも最善のモノを捜し求めていく。最後の始末も綺麗だ。尊敬してしまう。
 寒い中なのだ。私は我慢できず下駄を脱ぎ靴を履いた。冬休みの旅のために買った靴を初めて履くことになった。暖かい。でも仕事をしている守貴は寒いはずだ。
 母親、李金蓮は、農村の普通の食事を心込めて作ってくれた。饅頭も煮つけ野菜も美味しい。後ではすべて手作りの麺も出た。腹いっぱい食べた。
 新彊の彊の字は、アルタイ山脈と天山山脈と崑崙山脈の三本の山脈に囲まれた中の二つの土地、田の有る町を示していると雲燕は説明する。まさかとも思ったが、いかにもそれが当てはまる気になる。その上部の土地に、この烏蘇は存在するのだ。 シルクロードの北の道、天山北路の地図を見るとこの烏蘇は昔からの街であることが分る。
静かに烏蘇の夜が更けていきそうだ。


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