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作品名:『父の里の牛のように・「福岡拘置所3泊4日の旅」・丑の年の素敵な研修』 作者:あるが  まま

第5回   5 10月8日その4
<5>10月8日その4
 房に戻ったときすぐ小説が届けられていた。有難い。司馬遼太郎の「二人の軍師」であった。勿論知らない。早速座卓の前で読み始める。座卓は奥行30センチ余、横54,5センチ、高さはちょっと高めだから40センチ弱くらいか。320ページ程で8つの短編からなる。「雨おんな」と「一夜官女」に少し色っぽい所があった。いずれも関々原から大阪夏の陣頃の話だ。面白くスラスラ読めた。

 読み初めて程ない頃、何やら叫ぶ声が聞こえる。どうも一舎側から始まってこだまする如く三舎側でも大声だ。意味不明だが、あわただしく人の動きや物の音がうるさくなる。「ヤカン、ヤカン。」と入口側の窓から叱る声が聞こえてくる。「ハッ、ハイ。」と立ち上がってみるもののヤカンがどこにあるものやらウロウロするばかり。ますます叱られる。やっと差し出す。ジョーロの先をとった特大級が窓の格子越しにジャバジャバとつぐ。いつ頃からの知恵か、感心して見ていた。続いてメシ。大きなプラスチック製のお椀だ。そのあとは何もこない。はてと思いつつ本を読んでいたらやがてまた配膳係の通称雑役さんが来ていう。「ごはん食べんのか。」「箸は?」「あのカゴの中たい。」「おかずはこれだけですか?」と飯の椀のふたに先刻入れてもらった朝鮮漬風のつけものを示す。「チェッ」とばかり戻って台車の中からとってきた汁を汁椀にジャーッとうつしてくれた。豚汁である。赤だしだ。

 先の昼食は、所入りが遅れたため調べの前に廊下で三人並んで食べていた。カレーとマヨネーズつきのサラダにたくわんだった。45歳氏は殆ど手をつけてないみたいだったが、私は大阪氏と共に全部たいらげていた。大阪氏は「麦が少ない。向うは7割位ある。麦の多いのはメシが固い。」とかひとりごちていた。
 あれからあまり時間も経っていない。おかずは皆食べたがメシは半分以上残す。

 ほどなくまたしても大声。夕点検の17時になったのだ。卓を所定の位置に移し、窓に向かって正座。「番号。」と係官の威勢がいい。思わず「702号竹尾。」と応える。「702番やり直し。番号。」「702番。」「1名。ヨシ。」と次に移る。それがずっと続く。私らは独居房だが奥の方には雑居房があるらしい。そこでは「1、2、3、4」などと答えているようだ。

 全部すむと「ヨーシ」の声が響いてくる。「おやすみ。」とかの声もまじる。もういいだろうと思って布団敷いていたら、まわって来た人が「まだだ。」と叱る。確かに心得を読むと18時からとなっている。またあわててキレイにたたみ直す。(係官同士の挨拶も聞こえてきた。)
 本を読み続ける。18時過ぎてもそのままの姿勢でいたら今度は「もう敷いていいぞ。」と教えてくれた。

 どこからか、ラジオか何かが聞こえる。「アッビバビバ ビバノンノン」とか言っているから『全員集合』か。テレビも見れるのかなどと思ったりしたがこちらは関係なし。読書読書。21時「ひとりで寝るときにはよう…」のメロディー、電灯は半減。眠りの時間だ。仕方がない。天井は半減したとは言え字も読めないわけではない明るさ。明朝7時20分までこのままの状態が続く。


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