<3> 10月8日その2 入って左折、少し進んで左の部屋で引き継ぎがあった。名前と生年月日、本籍を問われた。全くの命令調世界に入った。検察庁の人は、任務を終え退室した。 棟違いの取調べ室という風の室に連れて行かれた。そのあと、手錠つきの大阪から別件の証人とかで移送されてきた人も加わり三人になった。 貴重品のお金、指輪、時計をまず出した。一方で家族関係、仕事、身体の特徴などの記述がある。左手薬指の突き指で変形した部分にも注目し、身体の略図の書いてある用紙に書き込まれた。盲腸の跡やリンパ腺異常の跡についても申告した。 「ちんぽに細工してないか。」と大阪からの人が問われ、「ハイ。」と答えるのが聞こえた。私も後で同じく問われたのだが、この問いがあるということで、この世界には思ったより多い細工だということがわかる。玉をつめるとかは聞いていたが、穴をあけるというのはどんな状態なのか見当もつかない。刺青のことを「文身」と呼ぶことも教えられた。 さて、持ち物の確認が厳しい。ゴザの上にすべて広げ、一つ一つ確認だ。私と一緒だった人は私より僅か年長で45歳になるみたいだが、この45歳氏の方が先にあった。メモ紙や新聞など、捨てよと言わんばかりの見幕に45歳氏は大事なものだからと保管を懸命に頼んでいた。他人にとってはつまらぬものでも、本人には大事なものというのは当然あるというものだ。 私は殆ど物は持っていってなかったからすぐ済んだ。「古典百景」や「唐詩選」を読むつもりでいたが、明日以降でなければ不可だという。ティッシュ5,6袋の中を出してそれだけが持ち込みを許された。下着も何もはずし、おまけに両掌、口中、髪、更には尻の穴、足裏まで調べられる。 覚悟はしていたから、抵抗なくできた。いよいよ官所有のパンツ、シャツ、上下の上着を着る。上着は5つボタン、ジャンパー形式で首元までボタンをとめる。手首も同様だ。胸ポケットはとれていて、ボタンのみが名残りにある。下は後右ポケット、ボタンなし。前にひもが10センチ程ずつ左右にあって、それを結んで落ちないようにしている。すそは10センチ以上裏側であげていて、誰がはいてもぞろびくことはなさそうだ。はきかえたスリッパもこれまたグレー、番号が153と読める。 私個人が貰った番号は702番。この後何度も大きな声で唱えることになる番号だ。房に連れていかれる間、「本名で呼ぶのもまずいことがあるので番号をつけるのだ」ということを聞かされた。「納金を早くすませて出れるようにしなさい」と親切だ。 廊下を曲がる時は直角、扉の前後では黄色で足形の図示された位置に壁に向かって立ち、号令に従って動くのだということも、だんだんわかってくる。
|
|