<1> まえおき 拘置所の中での丸三日間、結果的だが、牛の気分でもあった。子どもの頃父親の里に行く度に飽きもせず見ていた牛のことを、何故か思い出してしまった。目一杯働いた後に小屋でもぐもぐ寝そべる不思議な存在の牛に、我が身を似せるのは些か気が引ける。が、許して貰っておこう。 とにかく書く時間はあり余る程あった。たくさんの徒然の思いを書いていた。便箋にビッシリ13〜4枚になったが「所内のことは書いても持ちだせない」と没収されてしまった。改めて、また1から書きなおさねばならない。しかし一万字余を一晩で書いてみるということ自体も貴重な体験ということになるだろうか。とにかく記憶を総動員して書く。
そもそものこと 呼び出された8日、間違いなく私は出かけた。何が待ち受けているか大いなる期待をしてである。問題になってはいけないし当然のことながら年休を二日半こっそり取った。極めて計画的でしかも二度とは味わえないだろう、いわば貴重な校外研修である。 私は生徒たちに決して刑務所に行くようにはなってほしくないし、その旨話すこともある。残念ながら私の受け持っていた卒業生で道を踏み誤った者を持った。元担任ということで面会にも行かせてもらった。そこはやっぱり私ら日常生活を平凡に、しかも真面目に送ろうとする者が立ち入ってはいけない所だ。身近に保護司を知っているが、彼の心情も全く同一である。 私はあえてその「異常」な場に自らを置き、そして生徒らへの説得力をも持ちたいと願った。交通事故を犯したことでの罪意識も当然ながらある。それらを含め、好奇心を満たす絶好の機会として、私の中のある部分が激しく動きだしていた。
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