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作品名:日々、淡々と 作者:

第2回   過疎化
しばらく見ないうちに膨れ上がったそれは行き場を無くした。


処理するのを怠った結果。
誰にも言えやしない誰にも。




からからと回る赤い風車。

縁側から右、左、上、下、視野の限界いっぱいいっぱいに収める。
決して目を閉じてはいけない。

血走って目が乾く。

飲みかけのサイダーがきらきらと視界の左隅っこにはいる。


飲みたい衝動を押さえながらひたすらじっとその時を待つ。

身体中から流れ出る汗を拭きたいが、それも押さえ込みひたすらじっとする。

風はない。

無音の中
地面の砂がじりじりいってる。


卵を割ると頭が砕ける。

忘れないように頭の中で呟き、ひたすらじっとした。



体に不快感を与える汗がでなくなった頃、静寂を破る一つの風。


目の前にぼんやりと現われる黒い影。

宙に浮いているかの様にも見える。
少しずつ影は近付いてくるというよりか、空気を吹き込で膨らんでいく様子に近い。


黒い影はぐにゃぐにゃと形を変えながら時々ノイズを発する。


少女は左手に持っていた赤い風車を前に差し出す。


黒い影はノイズを発しながら徐々に形をなしていく。


少女は乾ききった目を静かに閉じる。

差し出した風車が抜き取られたのを確かめて、目を開く。


目の前には少女と同じ顔、形をしたものが立っている。


こんにちは。


ノイズが混っているが少女と同じ声。


少女は卵を手に取り

さようなら

と言って卵を握り潰す。

それと同時に少女の形をした黒い影は、形を保てなくなりぐにゃぐにゃ崩れている。

けたたましいノイズを発しながら小さく収縮する黒い影。


小さくなった影を拾いあげ飲みかけのサイダーに入れた。

しゅわしゅわと音を鳴らしながら溶けていく。



しばらくすると月がのぼる。


サイダーの瓶を月の光にかざす。

気泡が空へ飛び立とうと上る。
中の液体はじんわりと紅に変色してゆく。
それを降って飲み干す。




少女の身体は軽くなり、月に吸込まれる様に上っていった。



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