しばらく見ないうちに膨れ上がったそれは行き場を無くした。
処理するのを怠った結果。 誰にも言えやしない誰にも。
からからと回る赤い風車。
縁側から右、左、上、下、視野の限界いっぱいいっぱいに収める。 決して目を閉じてはいけない。
血走って目が乾く。
飲みかけのサイダーがきらきらと視界の左隅っこにはいる。
飲みたい衝動を押さえながらひたすらじっとその時を待つ。
身体中から流れ出る汗を拭きたいが、それも押さえ込みひたすらじっとする。
風はない。
無音の中 地面の砂がじりじりいってる。
卵を割ると頭が砕ける。
忘れないように頭の中で呟き、ひたすらじっとした。
体に不快感を与える汗がでなくなった頃、静寂を破る一つの風。
目の前にぼんやりと現われる黒い影。
宙に浮いているかの様にも見える。 少しずつ影は近付いてくるというよりか、空気を吹き込で膨らんでいく様子に近い。
黒い影はぐにゃぐにゃと形を変えながら時々ノイズを発する。
少女は左手に持っていた赤い風車を前に差し出す。
黒い影はノイズを発しながら徐々に形をなしていく。
少女は乾ききった目を静かに閉じる。
差し出した風車が抜き取られたのを確かめて、目を開く。
目の前には少女と同じ顔、形をしたものが立っている。
こんにちは。
ノイズが混っているが少女と同じ声。
少女は卵を手に取り
さようなら
と言って卵を握り潰す。
それと同時に少女の形をした黒い影は、形を保てなくなりぐにゃぐにゃ崩れている。
けたたましいノイズを発しながら小さく収縮する黒い影。
小さくなった影を拾いあげ飲みかけのサイダーに入れた。
しゅわしゅわと音を鳴らしながら溶けていく。
しばらくすると月がのぼる。
サイダーの瓶を月の光にかざす。
気泡が空へ飛び立とうと上る。 中の液体はじんわりと紅に変色してゆく。 それを降って飲み干す。
少女の身体は軽くなり、月に吸込まれる様に上っていった。
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