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作品名:夏祭りにて 作者:フォン=マンハイム

第1回   其の一
 夢だ、いや夢であって欲しい。
 そうボクは思った。

 相当にくたびれた感じのする白い浴衣で、何日も日にあたってないような真っ白の肌、電灯の光でもキレイな黒髪が何故か顔を隠すようにボウボウにおおい、クラスで半分ぐらいの背のボクと同じで、病院で点滴をもらって過ごしてそうな12歳ぐらいの子なのに、あんなに強いなんて、それを見たはずのボクは信じれなかった。
でも、この子の周りには友達が3人とも鳴き声一つたてずに倒れてるんだ。ひょっとしたら死んでるのかもしれない。

 ボクも同じ目にあうかもしれない・・・だって、ボクの方を見てる

「おい、そこのビビってるの」
 
 こっちに来た・・・逃げなきゃ・・・今は祭りだから人もいっぱいいるし・・・

「あ〜無抵抗な者は殴らないから、おとなしくしなさい」

 ・・・ウソだ、ウソに決まってる。

「いっいやだ!ター君みたいにトンって倒すつもりだ!!」

 その子は困ったように頭をかいて、何か疲れたように

「いやだから、そのター君達が襲ってきたから、私も抵抗措置をとったまでであるからね。とりあえず、信じなさい」
「でっ、でも全然動いてないじゃないか!殺した・・・うわぁ、ムグ」

 いきなり、ボクの口を細い腕でふさぎ

「聞き分けのないのは私嫌いだよ。殺したというなら君は脈を診たりして確かめたのかい?たんに寝ているだけだから、大丈夫だ」

 口をふさいでいた手をどかす。

「でもね、君。私の事どうこう言う前に境内の隅のお稲荷さんの賽銭箱(さいせんばこ)を開いていたのはどうしてだい?
それと賽銭箱のお金をとったら犯罪だって事をしってるのかい?」
「だって・・・」
「まぁ、おおかた・・・出店で使い切ったんで、遊ぶ金欲しさにやったんだろう?」
「うっ、うん・・・あの、アムゥ」

 また、ボクの口をふさぎ

「あぁ!どうか、どうか、親や先生には言わないで下さい!!」

 おどけた調子で言いながら、髪を大きくゆらして、だろ?っと付け加えた。たぶん、ウィンクのつもりなんだろう。

「大丈夫、言わないであげよう。ただし、1・2時間程、私と祭りを楽しめ」
「ムグ!ウムムオォォウ!!(訳:えぇ!どうしてなんだよ!!)」
「お金の心配か?大丈夫、大丈夫、君達が盗った賽銭があるじゃないか。4000円ぐらいはあるし、どんな犯罪もバレなきゃいいのだよ」
「ンギー!?ウモモォオォウ!!(訳:おい!?さっき責めていたじゃないか!!)」
「何、違うのかい?そこに転がってる3人のガキを心配しているわけか?君は友達思いなんだな。
今は夏だから風をひいたりする事もないし、1・2時間は多分はあのままだから、ベンチにでも座らしておけば大丈夫だ」
「ンモォウ、オオォウヲ・・・(訳:もう、分かったよ・・・)」
「うん、交渉成立だな」
「フンモ、ふぅふぅ・・・(訳:いいから、手をどけてよ)」

 口を押さえていた手がスッとひかれ、ボクは空気の美味しさを実感した。
そして、気がつく。

 こんな、変な髪の子と一緒にいる所みられたどうしよう?
・・・ここは言わなきゃダメだ。

「あっ、あのね。遊んでもいいけど、その変な髪をどうにかしてくれると嬉しいんだけど・・・」

 その子は髪を大きくゆらし。

「ん?やっぱ、変か・・・じゃ、これはどうだ」

 いきなり髪を両手で上げて、どこから出してきたのか紅いヒモでしばった。

「うん、そうしてくれていたら・・・」

 ボクは息をのんだ。
 髪で隠れていた顔は整っているよりも、りりしい。大人の人、特に何かボクには難しくてよく分からない大事な事を背負い、それをやってる人ぐらいにしか見たことない、りりしさと同じだ。
 でも、ボクは目におどろいた。
 不機嫌そうにマユとマユの間にシワがよっているけど、でも、それでも何か温かい感じのする目。

「ん〜変かい?」
「違うよ、キレイだからビックリしてるだけだよ」
「ありがと」


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