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作品名:ミツバチと喫煙 作者:いい色

最終回   1
日曜の昼下がり、家事を終えてベランダで一服してみることにした。

鉛筆立てに放り込んであったマッチ、小さなキャンドルスタンド、お昼寝している彼が放り出したタバコを一本拝借してベランダに出た。
6月の上旬。気候はいいのだけど、雲が多くて晴れてるんだかなんだかはっきりしない天気だ。
久しぶりに干した布団にタバコのにおいが着くと嫌だなぁ、とか思いつつマッチを擦る。
タバコに火を付けて最初の一息を吐き出したとき、下唇の内側が痛かった。
やってしまった。くわえてたから紙に張り付いたんだ。
少し血の味がして、なんだか咎められた気分になる。

私は普段タバコを吸わない。
むしろタバコのにおいも嫌い。たまに吸うとクラクラするし、気分が悪い。
ポイ捨てされた吸殻を見るたびに、こんなもの世の中から消えればいいのにと思う。
だが、不思議なことにたまに無性に欲しくなる。
そんな時は決まって何だか少しイラついてる。
自分の状態があまり良くない時に吸いたくなるのだ。

自虐的な行為なのか、何かに対する当て付けなのか分からない。

私の彼は喫煙者だ。止めて欲しいと言っても聞かない。
なのに私が吸うのは嫌がるのだ。
勝手だなあ。
勝手といえば、前に映画か何かのとある登場人物をカッコイイと私が言った。
「でもあいつお前の嫌いな喫煙者やぞ」と、彼が言った。
あっそうか〜、なんて答えたけど、あんたもじゃないか !! と心の中で突っ込んどいた。

ぼんやりと煙の行く先を気にしながらそんなことを考えてると、干した布団にミツバチが止まっていた。
ミツバチはハエのように足を忙しく擦りながら、ネコのように顔を洗っている。
支えている後ろの2本足は太くてたくましい。
腹は膨らんで黒とオレンジのキレイな縞模様が見える。
胸にはミツバチ特有のファーのような毛が取り巻いている。
ミツバチを擬人化すると結構セクシーだと思う。

こんなに近くでミツバチを見るのは久しぶりだった。
私は子供の頃、学校のプールで一回、家の家庭用プールで一回ミツバチに刺されたことがある。
泣きはしなかったけど結構痛かったので、あんまり蜂は好きじゃないのだ。
それでも今では知識もついたお陰で優雅に観察できる。
繁殖期でなければミツバチは攻撃的でないこと。
こちらが騒がなければ、ミツバチも怯えないということ。

そんなわけでこのミツバチと一服しようと勝手に決めた。
とは言え刺されたら嫌だなとか、刺されたら殺すとか、アナフィラキシーショックってやつで死んじゃうかな?とかも思っていた。
タバコの煙吹きかけたら怒るかな?とも思ったけど、そんな意地悪してもしょうがないし、私の布団に匂いが着くのは嫌だったのでやめた。

じーっと観察していると、頭の掃除が終わったのか、今度何やら自分の腹を丹念に擦り始めた。
器用に身体を内側に丸めて、頭を覗き込むように自分の腹に向け、腹の先っちょを止まっている布団に対して垂直に向けている。
そして、後ろ足やら中の足やらを支えにしつつ、その足で自分の腹を上から下へと擦っているのだ。
こんなのは初めて観た。まるで自慰行為にも見える。
働き蜂はメスだからそんなことはないか?とあほなことを考えつつ、腹の中の毒針の具合でも悪いのかと心配した。
そう言えば、蜂の巣の中に居る貯蔵庫のような役割のモノは、自分の腹に蜜を溜めることができるのだ。
もしかして彼女は自分の蜜でも舐め採っているのかな?

私は火の着いたままのタバコをキャンドルスタンドに置いて、携帯を取りにそっと部屋へ戻った。
珍しい光景だから写真に収めておこうと思ったのだ。
携帯は撮影時にカシャッとか音が鳴るから、ビックリして彼女が飛んで行ってしまうかも知れないと思い、ちょっと離れてそっとボタンを押した。

飛んでいかない。
今度はもっと近くで一枚撮らせてね・・・そっと近づいて携帯に写る彼女を見る。

あっ・・・変なこと止めちゃってる。

そう思った瞬間、彼女は飛んで行ってしまった。

また働くのか。無事仲間の元へ帰れるかな?
私の布団の止まり心地は良かったかい?

最後の一息を着いてタバコの火を消す。
やっぱり気分が悪くなった。
タバコくさい。嫌なにおいだ。

もうこれでしばらくタバコを吸うことは無いだろう。


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