砂浜から立ち上がり見たのは水平線に広がる美しい夕日であった。 俺はそれに見とれてしまった。 美しかったのだ。 今まであの薬で汚れてしまった「あいつら」を常日頃から見ていたものだからこんなきれいな物を見るのは久しぶりだ。 俺は小さな感動を覚えた。
俺は砂浜で見つけた木の棒を手に取り道のど真ん中に立てた。 これからの自分の行き先を決める重要な役割がこの棒にはある。 「パチッ」と小さな音を立て棒は倒れた。 棒は右を向いて倒れている。 俺は体の向きを右に変え歩き始めた。 歩いていると急に昔の思い出がよみがえってきた。
昔、俺は新潟のど田舎に住んでいた。 14歳くらいの時だろうあの薬が出回り始めたのは。 それまでは俺は貧乏ながら幸せな生活を送っていた。 月曜から金曜までは学校で友達と遊び土日には農家だった親の手伝いをした。 今ではその親は俺を守るために「あいつら」に食べられ友達は「あいつら」になってしまった。 そこから俺は一人で生きてきた。
やっと俺は我に帰った、足元に大きな石があったのにも関わらずにそれに気づかず転んでしまった。 手にできた痛々しい傷を見ながら俺は途方にくれた。 これからどうすればいいんだ… 分かっている事はここが博多だって事だけで他にどうやって東京に行けばいいかとか「あいつら」はここに居るのかとか頭には「不安」の二文字しか出て来なかった。
|
|