最後の暑き夏なのか そして 過ぎた時を 想う…
『蝉羽月』
涙雨の季節 紫陽花が小さな蕾を 膨らませ始めた
そぼ降る雨にとけた蝉羽月 花嫁は もう ここにはいない
幸せがパッケージできるなんて 古めかしい言い伝え
フリーズドライの花束とは違(たが)う 空蝉
紺碧の海が 厚き雲によって 灰色の風景に変わった
遠い記憶 柔らかな羽衣を 抱きしめ
断崖を堕ちてゆく あの姿 フラッシュバックする
風が強い 波の飛沫(しぶき) 荒々しく
人は何者に 永遠の誓いを たてたのだろうか
全ては物語 架空の存在を敬うように
奈落へと あの頃は
はき違えた 天と地 信じすぎて
紫陽花の小さな蕾は 銀河の集まりのよう
美しく咲く 涙雨に色を添える
やがて枯れてゆく 運命を 拒むことなく
煙る雨に 佇んでいる
記憶は 根から吸い上げられるのか アスファルトの大地の 深く
額の変化(へんげ)する色彩は 微かな希望を映すよう それでも
いつか華やいだ蝉羽月 その花嫁は もう ここにはいない
* * *
どこまで耐えられるだろうか 嘘ばかりの暮らしの中で あまりにも軽んじられる存在 剥き出しの敵意 不誠実 憎むよりも前に ココロを 失ってしまいそうな 日々
* * *
詩よ 魂を生かして…
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