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作品名:静夜想詞 作者:鳴瀬羽迦

第9回   転生とカルマ
転生とカルマ




前世なるものはあるのかな、来世なるものは?
ある人もいれば、ない人もいるかもしれない。
結局、現況では、かもしれない止まりのお話しなんだ。



でも事実かのように概念化していたりする。
宗教によっては転生の概念がないばあいもあるけど。
前世療法というカウンセリングもあるほど、その概念は社会に一般化している。
でもこれに関しては(転生カルマ論を一般化してしまうという)誤解を
生じやすいネーミングだと常々思っています。
ようは催眠療法なんだよね。
引き出(誘導)しているのが前世の記憶とは証明しきれないもの。



前世のカルマが現在に影響するという考え方(転生+因果業報論)は、
ヒンドゥーもしくはバラモン教あたりからみたいだ。
実はブッダはその概念を批判し転換しようとしていた。*
前世(過去世)のカルマ(宿業)に縛られていると考えることこそ、
差別意識(当時のバラモンのカーストのこと)による呪縛である云々と。
でも皮肉なことに、彼の教えから始まった仏教に、
ヒンドゥーやバラモン教からの概念が織り込まれてしまった。



そして仏教をかじった人、もしくはその概念を取り込んでいる思想をかじった人は、
善を行うことで前世のカルマを転換し現在と未来の善果(幸福とか)を得ようとする。
その精神が宗教組織の運営に利用されてきたともいえる。
(例えば特定の信仰を広めることが善行を積むことになるのだと思わされ…)
(または壺などのグッズを売ることが善行と思わされ…)
ブッダは善行は因とするのではなく、生の目的であると説いてもいるのだけど、
思い込んだ人の耳には届かないみたい…。



私が病気をしたとき、仏法信仰者に過去世の宿業だといわれた。
その前に、人はどんな宿業を持っているかわからないから〜と信仰を勧められていた。
それで治したい一心が彼らに言われた通りだったのではないかと、
一時期、思い込みを起こしてもしまった。
ひねた考えかもしれないけど、弱みにつけ込まれたとも言える。
でも病気の症状に苦しみながらも考えた。
この世の中には現在の医学では治せない病気だってある。
その疾患を持ちながらもしっかりと自分を生きている人達もいる。



カルマ(宿業)とは、病などの現象ではなくて、
こうして囚われてしまう心の傾向のことではないかな、と。
そして確かに健康は望む姿ではあるけど、
完璧に健康なことが幸福の完成とは限らないのではないか、と。
幸福像すら社会の概念によって成り立っている幻みたいなもの。
どんな状態でも心の在り方こそ肝心なのではないかと思い至った。
そして病気の体験こそ、それまで曖昧に概念化していたことを
見つめ直すきっかけになったことを思う。



さて、私的には転生+因果業報論では、人は堂々巡りを余儀なくされそうで、
堂々巡りどころか転落してゆくようにさえ思え、腑に落ちない感を持った。
なぜブッダはこんな人を呪縛するような教えを説いたのだ、と、
病から回復後、経典の解説などをいろいろ紐解いてみると、
先に書いたように、その概念はブッダの説とは異なり、
歴史の中で後からくっつけられたのだとわかった。
特定の団体がその権威を維持しようと
人の信仰心を利用するために用いたともいえそうだ。



ところで、善を行うことで前世のカルマを転換し現在と未来の善果を得ようとする行為は
よくよく思えば、いえよくよく思わなくても、実はとても利己的な姿。
例えば特定の信仰を広めるではなくとも、
他人に親切にすること(利他)も自身の善果を得ようと思う心からの行為であれば、
その心の在り方は利己であって善ではないと思う。
ここで因果業報論を持ちいれば、
そういう人達は(無意識にではあるだろうけど)利己を因として行動している。
それが、どんな世界を作る手伝いをしていることになっているのか?
と思ってしまうのでした。



昨今の日本では宗教や信仰に関わる人はさほど多くはないと思うけど、
日本の精神文化には少なからず転生+因果業報論の概念が織り込まれていたりする。
なにかしらちょこっと不安を感じるゆえに、善い行いをすればなんて、
自分の心の中にそんな概念はないか、たまには省みてみるのも大切かも。



転生はロマンを感じる部分で、あって欲しいなあとは思うけど…。






*「人は生まれによって賎しい人となるのではない。生まれによってバラモンになるのではない。行いによって賎しい人にもなり、行いによってバラモンとなるのである」 ブッダ






No.050205


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